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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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部に復活した幸村の、第一の仕事。
それは全身全力で真田を殴ることだった。

その場には、現役のテニス部員全員と幸村の復活を祝いに馳せ参じたOBや保護者、教師達がいた。
皆の前で、幸村は渾身の力を込めて、真田の顔を平手打ちにした。
真田が吹っ飛び、幸村の掌が軋んだ。
皆が息を飲み、二人の行為を固唾を飲んで受け入れた。













気を失っていた真田が目を冷ましたのは、だいぶ日も落ちた夕刻のことだった。その日の練習は終り、部室に残っているのは真田と幸村だけだった。
頬に添えられた冷たいタオルの存在に気がついた真田は、そっとタオルに手を触れた。ひんやりとした感触が気持ち良い。
「……………痛む?」
幸村が首をかしげて、真田の顔を覗き込む。
真田は相手を愛おしむように目を細めて、微笑んだ。
「覚悟はしていた。」

ゆっくりと幸村も頷いた。
「手加減はできなかった。俺達が犯した罪は、それほどまでに重いのだから。」


関東大会の決勝。あの場で立海大附属は敗退してはならなかった。立海大に負けは許されない。俺達は、立海大テニス部の永きに渡って培われた伝統と誇を汚してしまったのだから。


真田は起き上がると幸村の白く細い手首を優しく掴んだ。
「痛かっただろう。人を殴るということは、殴る側にも苦痛が伴う。辛い役目をさせてしまったな…。すまなかった。」

「いいんだ。俺でなければ、ならなかったんだ。部内で唯一関東に出ていない…汚れていない俺でなければ…あの行為は、ただの茶番劇にしかならなかった。俺でなければ、周囲は納得しないだろうからね。」

「…………では」

「事態は概ね成功したといえるんじゃないかな。皆の意識は、負けを知らない鬼部長の完全復活と全国優勝への期待にむいただろう。関東敗退の象徴たる真田が殴られたことでね。やれやれ。重すぎる伝統と誇というのも問題だな。」

「同感だ。」

関東敗退が決った時から、二人はずっと己の過失と責任について考えてきた。
関東敗退により周囲に与えてしまった不安と失望の思いは、計り知れないものがある。皆の不安を少しでも取り除き、万全の状態で立海大が全国優勝をもぎとるために…。
どうしても罪人の公開処刑が必要だった。

「ねぇ真田」

真田の掌を握り返して幸村は言った。

「どうして死刑というものがあると思う?」

「…………己の罪を償うために」

「贖罪を死とすることは重すぎるとは思わないか?死んだところで、犯した罪が無くなるわけじゃない。生きようと死のうと、犯した罪は地上に残るんだ。永遠にね。つまるところ真田が殴られたところで、青学に負けた事実は変わらないんだ。永遠にね。」

「……………。」

「俺達を知るすべをもたない未来の後輩たちはこう思うだろうね。この年の先輩達は、きっと脆弱だったに違いない。15年もの間無敗を保ち続けてきた伝統あるテニス部に土をつけて凌辱するなんて、なんと愚かな世代だろう。俺達はこうはなるまいってね。俺達は未来からの批判を、甘んじて受け入れる覚悟を決めなければならない。なぜならば、それが俺達が犯した罪であり罰だからさ。」

「………すまなかった。俺が…」
苦痛に歪む真田の声を幸村が遮る。
「真田を責めているわけじゃないんだ。負けたのは何も真田一人の責任じゃない。俺なんて戦う以前の問題だしね。今俺が言いたいことは、そんなことじゃない。」

幸村は優しく微笑んだ。

「死刑というのは、見せしめのためにあるんだ。二度とその罪が起きないように、周りの目に焼き付かせるためにあるんだ。俺が今日真田を痛めつけたことは、俺達の罪や罰とは無縁のところにある。」

「そうか…」



天を仰いで真田は言った。

「俺達は、未来のためにそうしたのだな。」

「そう。俺達は、未来のために生きたんだ。だから誇を持とう。例え先の未来にどんなに蔑まれても…」


真田は幸村を抱き寄せた。

彼の肩にのしかかる目に見えない重圧の重み。

この身に代えても、その全てから彼を開放してあげたいと真田は願った。



「勝とうな、全国。」




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「チキンレースだ。」
と榛名は言った。

榛名はショーケースの中から黒光りする一丁の拳銃を取り出した。拳銃の中に一発の弾を込める。

「弾は六発込められるが、今この銃には、一発しか入ってない。見ただろ?俺とお前で順に引き金をひいて行く。運の強いほうが勝ち。それだけだ。簡単だろ?馬鹿でもわかる。」

そして榛名は、ほくそ笑んで自分の頭に銃を当てた。

「お前が勝ったら隆也は返してやる。お前のものだ。好きにすればいい。だが俺が勝ったら二度と隆也は返さない。隆也は俺のものだ。どうする、やるか?」

榛名は、この場に来てからずっと小刻みに震えたままの小さな勇者を見据えた。

「う…あ……や、やる…」

視点が定まらないほど震える三橋は、両腕で自分の体を抱きながら頷く。

「馬鹿!やめろっ三橋!」

部屋の片隅で阿部は叫んだ。両腕と両足をしばられた彼はその場から動けない。

「やめろ…やめてくれ榛名…もうこんなことは…三橋にだけは…俺はどうなってもいいから…」

「うっせぇ!お前は黙ってろ!お前は商品なんだよっ!」
榛名の怒声にヒッと三橋は身を縮める。

「おい、お前。やるって言ったんだからな。自分の言葉に責任持てよ。」

榛名はためらいもなく引き金を引く。カチリと軽い音がして、その場は静まり返った。彼は、セーフだ。この世に命をつなぎ止めている。

「次はお前の番だ。」

榛名は三橋に銃を軽く放った。銃は震える三橋の手に軽くあたり床に落ちた。慌てて三橋は拾いあげる。

「っち。どんくせーな。」
(絶対に渡さねぇ。コイツに隆也は相応しくない。隆也は俺の、もの、だ。)

六発中一発弾が込められているというのは、嘘だった。それは簡単な小細工で、はじめの一発以外全て実弾が込められている。

(早く、死ね)


(許せない。こんな非力で弱いだけの弱者が、隆也の隣で笑っていることを。隆也の愛を一身に受けていることを。隆也は俺のものだ。俺だけのものだ。誰にも渡さない。だから早く裁きを受けろ)


三橋はゆっくりと頭に銃口を押し付けた。

「三橋いぃぃ!やめろぉぉ!お前はそんなことしなくていい!しなくていいんだ!」
阿部が泣き叫ぶ。

三橋はガタガタと震えながら、阿部を見つめ、微笑した。
「あっべ…くん…ありがと…う…。俺…阿部君に必要…とされて嬉しかった…阿部君が俺を大切に…してくれた…から…俺…生きてこれた…んだ。俺…阿部君を失いたくない……ダカラ」

「やめろおおおお」
阿部の悲鳴が響き渡る。


「おい、なんの真似だよ。」
三橋はゆっくりと腕を下ろし銃口を榛名にむけた。

「なんの真似だって言ってんだよ!」

一気に青ざめる榛名に、三橋は目に涙を浮かべて、薄ら笑う。

「馬鹿は…榛名さん…だ、よ?俺が…ロシアン…ルーレット本当にやるっだなんて…本気で思った…んですか?」

首をかしげ三橋は続けた。ゾッとするほど冷たい声で。

「俺は…卑怯…なんだ。臆病な卑怯者はルールなんて…守らない。俺は、わかってて…3年間…マウンド譲らなかった人間…だ…。人から後ろ指指されること…だって…蔑まされることだって…慣れてるんっだから…。ねぇ榛名さっん…この銃、一発弾入ってるんですよね?だったら俺は、後五回…引き金を引くだけだ…全てあなたに向けて」

「三橋っ…!貴様!」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!誰にも…誰にも阿部君を取られたくない!奪われたくない!」

「じょ、冗談だろ…やめろ…」
ジリジリと榛名は後ずさった。迂闊だった。三橋がこんな風に抵抗することを考えもしなかった。

「やめろ…嘘を…つ…くな…」
「うああああああああああ」
5発の銃声が鳴り響く。
溢れ出す涙の止まらない目を閉じて三橋が、引き金を引いたのだった。

カチカチと空砲になっても三橋は震えながら引き金を引き続けた。

「うっうう…」

三橋はゆっくりとおそるおそる目を開く。倒れている榛名。窓ガラスが割れてぐちゃぐちゃの室内。静まり返った空間。


「嘘つき…は榛名さんじゃないっか…」
銃声は5発だった。素直に従っていたら死んでいたのは、自分だった。

(あ…あああ…俺…人を…)


「三橋」

愛しい人の声にビクンと三橋の体が反応する。

「あ、ああ阿部く…ん」

「ほどいてくれないか、これ。」
「わ、わかった。」

三橋は銃を投げ捨てて、阿部の元へ走り寄った。きつく縛られた縄を解く。

「三橋っ…!」
両腕が自由になると阿部は三橋を思い切り抱き締めた。
「三橋三橋三橋…良かった…生きてて本当に良かった…」
「あっ阿部くん…おっ俺…人殺しちゃ…っ…た…どどうしよう…最低だ俺…」

「大丈夫。榛名は死んでねぇよ。ショックで気失って倒れただけだ。俺目見開いて見てたから。お前の銃弾、一発も榛名には当たってねぇよ」

「う、嘘…だぁ…」

「嘘じゃねーよ。お前こそ榛名のことビビって全然見てねーだろ。だいたいこの部屋の有様見てみろよ。散々流れ弾が飛んできて被弾したからこうなったんだろ。」

「うっ…あああ…怖かった…怖かったよぉ…」

腕の中で大粒の涙を零して泣きじゃくる三橋の背中を優しく擦りながら阿部は言った。
「ありがとな三橋…助けにきてくれて。俺と榛名のいざこざに巻込んじまって悪かった…ごめんごめんな…。愛してるよ三橋…俺にはお前しかいないから…」

三橋の顎を片手で掬い上げて、阿部は唇を重ねた。久しぶりの三橋の唇。不安と緊張からかカサカサに渇いている。涙はあんなにも零れているのに。阿部は優しく三橋の唇を舐めながら涙を拭ってやった。

その時。


冷たくて硬い何かが、コツンと阿部の後頭部に押しつけられた。

「残念だよ隆也…。俺はこんなにもお前を愛していたのに…」

「榛…名…ごめん…」

三橋を抱く腕に強く力を込める。三橋もぎゅっと強く阿部を抱き締め返す。阿部の温かい腕の中で三橋は震えることを忘れた。

「俺のものにならないなら…他人のものになると言うのなら…いっそ。」





「いっそ散れ。」






2発の銃声が、世界に響き渡った。

























×××××
榛名ファンの皆様に全力で土下座します。すいませんでした…。
いくら野球に忙しい高校球児と言えども、思春期真っ直中な彼等は、会話のネタが尽きると自然と下ネタに移行してしまうのが常である。
今日この日は、ミーティングのみで練習のない日なのだが、ミーティングが終わった後も誰も帰る気になれず、ぐだぐだとだべっていた。彼らはただ何もせず、チームメイトと笑いあってすごす、この曖昧で中途半端な時間をこよなく愛していた。今日の会話は昨日のテレビ番組から、今流行りの歌手やグラビアアイドルなどで盛り上がり、最終的にどういうわけかキスの話になった。


「キスってどんな味なんだろう?したことある?」
と栄口。

「はーい!俺知ってる!いちごミルク味!!」

と田島が手をあげる。

「えっ本当かよ?」
「本当だよっ!なっ!三橋!」
田島が隣に座っていた三橋に腕を回す。三橋もコクコクと頷いた。

「はぁ?なんで三橋に相槌求めんの?」
「ってか田島は誰とキスしたの?彼女いたっけ?」

キレ気味の阿部と空気の読めない水谷が尋ねる。

「田島に彼女なんかいねーし、田島のファーストキスの相手が、三橋だからだよ。」
「はあぁ?!」
憮然と答えた泉に、阿部が詰め寄る。泉は眉を潜めた。
「俺にキレんなよ。9組の奴等は皆知ってるし。」

「はぁ?!」

「だからこの前、うちのクラスでもキスってどんな味なのかって話題になってさ、田島が確かめてみたいっつって、三橋としたんだよ。はじめはおふざけで唇と唇の間にティッシュ挟んでしたんだけど、よく感触がわかんねっつって、次の日サランラップ持ってきて、サランラップ間に挟んでキスしたんだ。そしたら田島が、感触はわかったけど、味はわかんねって直に三橋にしちまったって…なんで俺がこんなこといちいち説明しなきゃなんねーんだっつの!」
泉は軽く阿部を蹴った。

「た、たじまくん…俺あの時いちごミルク飲んでたっから…じゃない?」
「あ、そっか!でもキスってマジきもちーよっ!なっ久しぶりにもう一回しようぜっ!」
「でっでも…あっ」

田島は三橋を抱き寄せると、一目もはばからず唇を重ねた。それは簡単な唇を重ねるだけのキスではなく、深い深いディープキスだった。

「っ…た…じま…くっ」

人前であるのが恥ずかしいのか、三橋は顔を赤らめて目に涙を浮かべ、若干の抵抗を見せた。田島はお構いなしに三橋の口内を舐めまわした。

(うっわ……)

西浦ーぜ達は、そのキスに目が釘付けになった。人目もはばからず、深いキスをかわすエースと四番打者に注意するなり怒るなりしなければと誰もが思ったが、こんなに近くで生々しいキスを見たことがなかった青少年達は固唾を飲んで、見入ってしまう。阿部だけが、声も出ないほどのショックで卒倒しそうになった。

「っぷはあっ」
やっと唇を離した二人は照れくさそうに笑って言った。
「めっちゃ甘かったっ!」
「さっ…きココア…飲んだばっかり…だっから…」


「みい~はあ~しい~」
「ヒィッ!あっ阿部くっ?!」

地獄の底から舞い戻って来た死人のような顔をした阿部が、三橋の頭を鷲頭かむ。

(あっ阿部くっ…?!なんか怒って…る?!)

「三橋、ちょっと来い」

阿部は立ち上がると、怯えて震える三橋の手を引っ張って教室を出ていった。阿部はそのまま無言で三橋を人気のない屋上まで連れていく。

「ね、お前さ、田島と付き合ってるわけ?」

フェンスまで追い詰めた阿部が三橋を見据える。完全に萎縮してしまった三橋は、目に涙を浮かべてかぶりを振った。

「つ…付き合って…ない…です…」

「じゃなんであんなことすんの?」

「あ、あんな…ことって…」
「キスだよ!キス!」

「た、たじまくんが…したいっ…て…おっおれ…男だし…貞操とか…関係ない…し…」

(男だから関係ないだぁ?!)
阿部の血管がブチ切れそうになる。

「お前っ!ファーストキスとか大事じゃねーのかよ?!」
「あ…あの…たったじ…たじま…くん…は…ファースト…キスの相手じゃ…な…い…か…ら…俺ずっと前に…終わってる…し…」

「はあああああ?!」

「ごっごめっんなさいぃぃ」
「お前のファーストキスの相手って誰だよそれじゃ?!」
「………か…かの…うくん…」

「叶と付き合ってんのか?!」

「む、むかし…でも…今は…付き合って…ない…よ…」

思わぬカミングアウトに阿部は頭が真っ白だった。怒るにも、阿部のほうが出会いが遅かったのだから仕方ない。
「あ、阿部くん…は…なんで…そっそんなに怒って…るんだ…?」


(怒ってる…?)

三橋を追い詰めながら阿部はハッと我に返った。
そうだ。確かに自分は怒っている。全身の血液が煮えたぎって逆流しそうなほど、怒り狂っているわけで。もし阿部が日本列島だったら、奥羽山脈と磐梯山と富士山と浅間山が一気に大噴火しているくらいだ。しかし今阿部が怒らなければならない理由なんて、ないのだ。だから三橋には伝わらない。どうしてこんなに腹腸の煮えくり返るような思いをしているのか。伝えなければ、三橋にはわからないままだ。

阿部は三橋の顎を掴んで、噛み付くようなキスをした。

「………っ」

「俺はこの唇を誰にも渡したくない。」

三橋の唇は柔らかくてふっくらとしている。阿部の唾液でシットリと湿った三橋の唇を、阿部は指でなぞった。

「お前がよくても俺は凄く嫌なんだ。」


「それって…え…?」

「あああもううわかんねーやつだな!お前のことが好きだっつってんだよっ」

「……………」

キョトンと固まる三橋。

「阿部く…ん…今の…本当?」

「あ、ああ。こんなこと嘘ついてどうすんだよ。笑えねぇだろ」
(ヤバい。勢いで告白しちまった…!)

瞬間、三橋はボロボロと大量の涙を零しばじめた。

「…そんなに…嫌かよ…」

ショックを受けて立ち尽くす阿部の腕を三橋は掴んだ。

「ちがっ…俺…嬉しく…て…俺っも…阿部くん…好き…ダカラ…でも俺…阿部くんに嫌われてると…思ってた…から…諦めてた…」

「馬鹿」


阿部は三橋をきつく抱き締めて言った。

「もう俺以外のやつと二度とキスするんじゃねーぞ。俺が傷付くんだからな。約束しろ。」


三橋は阿部の腕の中で、大量の涙を流しながら何度も何度も頷いた。


















「………二人とも帰ってこないね。」
全然帰ってこないバッテリーが心配になった栄口が呟いた。
「三橋…大丈夫かな?」
「…大丈夫じゃない?」

曖昧に西浦ーぜ達は目配せする。

「だいたいお前が、三橋にキスなんてすっから。そういうのはな好きな相手とするもんだろ。友達間隔でキスすんなよ。」
花井が田島を小突く。

「え~?!じゃあ今度から花井としてもいい?」
田島が身を乗り出して花井を見つめる。
「なんで俺?!」
「だって俺花井が好きなんだもん!ゲンミツに!」
「うわあっちょっ待っ!」
勢い余って田島は花井を押し倒す。


「……………」
「……………」

その様子を見ていた水谷と栄口は、気まずそうにお互い目を合わせた。


「とっとりあえずね…栄口、俺達もキスしてみない?」

「あはは。絶対イヤ。」






桐青高校元野球部員島崎と山ノ井は、高瀬を呼び出して、刑事ドラマよろしく取り調べの真っ最中であった。
引退した後だと言うのに、なぜこんなことになったのかと言えば、一年生捕手で新レギュラー候補の利央に泣き付かれたからである。即ち準太の罪状は利央曰く「準さんが、練習サボるんです!」ということになる。

利央が誰かれ構わず三年に泣き付くので、すでに推薦で進路が決っていて比較的暇な島崎と山ノ井が、お説教するということになったのだった。


「準太お前、練習出ないと駄目だろ?マジでお前、何考えてんの。桐青のエースだって自覚がたんね~みたいだな。」
「まぁまぁ。やる気が出ない時は仕方ないって。な、準太。」

「山ちゃんは甘すぎるって!」
「え~?そおかなあ?」

偶然の人選だったわけだが、飴と鞭の絶妙なるコンビネーションが誕生しつつあった。

「ねぇ準太、どうして練習行かないの~?」

連行してから黙秘を貫く高瀬の顔を山ノ井は覗き込む。

「…………。」

「初戦で負けて燃え尽きたんだろ。」

「そうかなあ?なんか悩みがあるんじゃないの?」

「……………。」

高瀬は黙秘を続ける。

「あのな、お前のせいで俺は貴重な放課後をだなぁ…」

「スンマセン…」

高瀬がやっと重い口を開く。
「本当スイマセン…。でも俺どうしても投げる気になれなくて…」

「何を甘ったれたこと言」
「だったら仕方ないよね~」「ちょっと…!山ちゃん!」「え~?」
「え~?じゃなくて!ああもうどうしてこう山ちゃんにはこう緊張感ってもんがねーかなあ!コイツは高校球児なんだから、3年間練習しかねぇんだってハッキリ教えてやんねえと!俺達だって3年間」
「休みなく突っ走って初戦負けだよね。あはは」
「……ああもう…」

島崎は頭を押さえた。駄目だこりゃ…こんなことなら予備校に向う河合を無理にでも引っ張ってくるべきだった。
(俺には荷が重すぎるなぁ…)

「ねぇ」

山ノ井は言う。

「俺、準太の好きにさせてあげればいいと思うよ。強請したって良い結果は生まれないと思うな…それに俺思うんだけど…野球より大切なことってたくさんあると思うんだよ。俺達が年取って高校生活を思い出した時、野球しかなかったら少し寂しいと思うんだ。だから俺は練習も大切だけど、恋愛することも遊ぶこともサボることも同じくらい大切だと思うんだ。」
「山ちゃん…」

「だから準太、さぼっていいよ~。」
「山サンっ…!俺…!」

感銘を受けて涙ぐんだ高瀬は山ノ井に泣き付いた。

「俺っ…あの試合のあと…西浦のピッチャーが気になって…気になって…夜もろくに眠れないんです…。どうしていいかわかんなくって…三橋のことを考えると胸がドキドキして…部活どころじゃ無くなっちゃって…」

「それって…」

山ノ井と島崎は顔を合わせる。

「恋、だな。」
「恋、だね。」





これが…恋…
高瀬はぼんやりと呟いた。そうか…これが…。高瀬にとってそれは初恋だった。そして思った。今日はこれから西浦に行こう。三橋に会って言おう。友達になってくれませんか。焦っちゃ駄目だ。ゆっくりゆっくり確実に…仲良くなればいい。

楽しそうに投げるアイツがみたい。
三橋の顔を一目見るだけで、投げる気力も沸いてくるような気がする。







そんな今日は戦士の休日。


明日この世界は82%の確率で滅亡するらしい。
それは突然訪れた俺達の終りの合図だった。

昨日クタクタになって練習から帰ってきた後、夕飯を食べながらテレビを見ていた時のことだ。
何を見ていたかはよくおぼえていない。くだらないバラエティだった気がする。俺は飯を食うことに夢中だったからテレビの音声は俺の右耳から左耳に抜けて行った。若手お笑い芸人が、司会者にいじられていた時だったと思う。急に画面が変わって、堅苦しいスーツのアナウンサーが写し出された。

「番組の途中ですが、政府からの緊急臨時ニュースをお伝えします。」

アナウンサーの低音の良い声に、俺はやっと顔をあげてまともにテレビを見た。後ろで洗い物をしていた母さんも何事かと顔をあげ、寝転んで雑誌を読んでいたシュンもキョトンと顔をあげた。

更にテレビ画面は変わり、時の総理大臣が気難しい顔で写し出される。

「え~…と…まことに突然で残念なことですが…明日人類は滅亡することになりました。実はつい先ほど地球の約4倍ほどの巨大隕石が82%の確率で明日の日本時間22時22分に地球に衝突するとの情報がNASAより…」


俺もシュンも母さんもポカンとしていた。
総理大臣の様子はまるで、明日の遠足が雨天延期になった場合どうするかといったような時事連絡を淡々と述べる老教師のようだった。

総理大臣自身事態が飲み込めないのか彼の締の言葉は、「国民の皆様一人一人の健闘を祈ります」で締められた。まさに成す術なし。国家総動員で神頼み。どんなに偉い政治家も貧乏人もできることはただ一つ。祈ることだけだった。18%の可能性に。

突然知らされた世界の終りを誰もかもが飲み込めず、他人事のように感じていた。もちろん俺も。

ニュースを見終わった後俺の口から真っ先に出てきた言葉は「へ~。そりゃ大変だな」だった。俺もシュンも母さんも災害の当事者になったことがないのだからしかたがない。戦争とか大地震とか大津波とかそういった物事は全部ブラウン管を通したまるで別の世界のことのように考えていた。俺達は、身に迫る死について考えたことがないのだ。
だから俺達は特に取り乱すけともなくいつものように風呂に入りいつものように寝て、朝を迎えた。そして俺はいつものように学校へ。ただ一つだけ違ったのは、出かけに言われた母さんの言葉。

「タカ。あんた今日帰って来なくても良いわよ。最期の時くらい好きな女の子の手でも握ってなさい。男の子なんだから」
「うぃっす」

俺は片手をあげて家族と別れを告げた。
「健闘を祈る。」


たった一晩で「国民の皆様一人一人の健闘を祈ります」という言葉は、俺の口癖のようになっていた。いや日本人全てのと言うべきか。日本人特有の変な連帯感というものだろうか。俺は登校途中すれ違う人全てに片手をあげて「健闘を祈る」と言い続けた。声をかけた老若男女全てが、俺に笑顔で返事をした。中には俺が声をかける前から「貴殿の健闘を祈る」と笑いながら告げていく者もいた。
俺だけじゃない。それはたった一晩で日本中を巻込んだ流行語になっていた。皆なぜかお祭気分だった。
最期の日くらい楽しく男決めたろ!と思う人間が多いのかもしれない。

学校につくと、普段通り授業を受けて普段通り部活をした。

世界最後の日だと言うのに、こんな代わり映えしない一日を送っている日本人のアドリブの弱さに、俺は悲しみを通り越して愉快でならなかった。

ただ一つ。皆が冷静を装っている傍ら心の底で血眼になって考えているのは、最後の瞬間を誰と過ごすか、だった。

俺の頭の中に浮かんでは消える虚像。

それは三橋だ。


この際だから認めよう。俺は三橋が好きだ。ずっとそのことには目を背けてきたつもりだが、俺は最期の時を三橋と過ごしたいと思っている。そして三橋もそう思っているんじゃないか。漠然とした自信が俺にはあった。


「三橋、今日一緒に帰らないか」
部活が終わると同時にそう告げると三橋はコクリと頷いた。やっぱり。

俺達は無言で手をつないで夜道を歩きはじめた。時刻は現在20時。世界最後の日だからか、普段より部活が終わる日が早い。


道で何人かの人にすれ違ったけれど、男同士で手をつなぐ俺達に野次を飛ばす人間はいなかった。
なんといっても世界終了まであと二時間。

人の目を気にしている暇はない。ささやかな欲望を胸に秘めているならば、開放する時は今しかない。


俺と三橋は、無言のまま公園にやってきてベンチに座った。他にも人がいたけど構いはしない。俺は三橋にキスをした。三橋もまた俺のキスに応えてくる。
言葉はいらない。お互いにもうわかっていることだから。
俺達は残された時間欲望に忠実になればいい。それだけだ。

俺は三橋の服を乱雑にはぎとって体中にキスをした。三橋は小さな吐息を漏らす。三橋の唇を吸い、耳を舐めまわし、胸を撫でまわす。

三橋は一切抵抗せず、俺の全てを受け入れた。

三橋と交わりながら俺は、突然訪れた世界の終りに感謝した。
なぜならこんな日が訪れないかぎり、こんな風に俺と三橋が始まることなどなかっただろうと思うからだ。俺も三橋も明日に怯えて、お互いの関係を崩せないでいた。明後日に怯えて、手さえ繋げずにいた。

ならいっそ明日なんて無くなればいい。

世界は終り、俺達は始まるのだ。


「三橋っ、愛してるよ」

俺は三橋を抱きながら言う。
「おっ俺も…愛して…る」

ああ。ああ。こんな恥ずかしいこと明日が来るなら言えない。次の日三橋とどう顔を合わせたらいいのかわからない。でも今なら言える。なぜなら明日は来ないから。






今まで失った時を、そしてこれから失う時を取り戻すかのように三橋と散々エロティックに交わって、もう死んでもいいだなんて絶頂を味わったあと、俺はふと重大な事実に気がついた。

公園の時計がいつの間にか零時を回っていた。
来ないはずの明日が来た。
いつの間にか人類は18%の可能性に打ち勝っていた。


「…………三橋」
「うひっ」

途端に俺達は真っ赤になった。な、なんてこっぱずかしいことをしてたんだ…俺達は…。


「あっ阿部くん…」

三橋はつないだままの手を愛しそうに見つめて言った。


「俺っこうなった…こと…後悔してないっよ!阿部くんが好きっ…だか…ら」





誰もが来ると信じる明日は、実は仮説でしかなく、誰もが来ないと思った明日も一つの仮説でしかなかった。
だったら俺達は、一日一日を悔いないように生きなければならない。


世界の終りの日、俺達ははじまった。
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