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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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「幸村部長ばっかり、ずるいッスよ!!!!」



切原赤也が叫ぶ。彼の沸点はとうとう頂点に達していた。
もう我慢できない我慢できない我慢できない…我慢できない!!!


「なにが?」

ポカンと幸村が顔をあげる。心底、どうして自分が可愛い後輩から攻め立てられているのかわからない、といった表情だ。

その瞬間に口に入れようとスプーンで掬った茶碗蒸しが、音も立てずにテーブルに毀れ落ちる。
それを見た真田が、無言でサッとテーブルを拭いた。

「そうだぞ、何がずるいというのだ?」
眉を顰めた真田が言う。

「だ、か、ら、それがっすよ!それと、それも!!」
赤也がまず指差したのは、幸村が今まさに食している茶碗蒸しである。それから真田の手の中の汚れた布巾。

「赤也、茶碗蒸しが食べたいのか?」
「……?この布巾がどうしたのだというのだ?」

「だああああああああもううううううううう」
的を得ない回答に赤也は悶絶する。

「幸村部長、その茶碗蒸し!真田副部長の分っすよね?」
「……それがどうかしたの?」

立海大テニス部は、夏合宿のため江ノ島に来ていた。
朝から晩までの血の滲むような練習も、朝昼晩三食の食事も、それから寝場所も、レギュラーはずっと一緒である。24時間つきっきりで、一週間を過ごさねばならない。

赤也が根を上げたのは、合宿もあと残り2日と迫った5日目の夕飯でのことだった。

(…………赤也の割りにはよく持ったほうだな。)
と立海大付属の頭脳、柳蓮二は分析した。
(ああ、初日に突っ込むかと思ったけどな。)
柳の隣で、本人持参の食後のスナック菓子をボリボリとむさぼっている丸井が小声で相槌を打つ。

「ああ、赤也も茶碗蒸し、もう一個食べたかったのか。ごめん、俺気がつかなくって。でも真田は俺にくれるって」
「だからそういうことじゃねぇんスよ。」

ポンと手を叩いて理解を示そうとした幸村の言葉を、切原が断ち切る。

「これは前から…ず~~~~~~っとず~~~~~~っと前から思ってたことなんスけど。真田副部長、幸村部長に甘すぎないっすか?俺が合宿の食事で好き嫌い言うと、全部食べないと食堂から出してくれない上に、たるんどるとか言ってランニングさせるじゃないっすか。なのに幸村部長は、自分の好きなものだけ真田副部長の分まで食べてる上に、嫌いなものは真田副部長に全部押し付けて食わせてるじゃないっすか。それに何かこぼした時だって、俺の時はめちゃくちゃ怒るくせに、部長の時は何も言わないし、さりげなく机拭いてるし…。」


(よく言った。)
傍観に専念することにした柳は、切原の勇気ある発言に心の中で拍手を送った。
おそらくこの場にいる真田と幸村以外のレギュラー陣の心の中では、拍手喝采だろう。
そんなことは、皆とうの昔に気がついていたことだが、勇気を出して口にするやつはいない。
皆自分の命が惜しいからだ。

触らぬ神に祟りなし

という姿勢を持つことが立海レギュラーとして生きていく上で、必要不可欠なステータスの一つなのである。


「う~ん……仕方ないだろ。俺、アレルギーなんだよ。いろいろ、とね。」
とスプーンを咥えて、眉を顰めた幸村が言う。

(絶対、嘘だな)
(嘘だ)
(嘘だろぃ)
(プリッ)

「何のアレルギーなんすか?!全部言ってみてくださいよ…!」

(若気の至りというのは恐ろしいものですね)
(ああ…赤也のやつ…明日海に浮いてなきゃいいけどな…)
食って掛かる赤也を見て、柳生と桑原は心の中で合掌する。


「なんのって……嫌いなものを食べたら、吐き気がするアレルギーなんだよ。だから、仕方ないだろ?」
怖いぐらいの笑顔を浮かべた幸村。
「うむ。そうだ。仕方がないだろう。幸村は体が弱いのだからな」
と真田ももっともだというように相槌を打つ。


(病気だ。)
(出た、真田の病気。)
(脳みそ沸いてるって、真田)
(恋は盲目とはよう言ったもんじゃのぅ。)

「それより赤也」

透き通った幸村の声が、食堂に響き渡る。

「早くそのピーマンと玉ねぎ食べたら?」

ギクッと切原の肩が震えた。
切原の皿には、ピーマンと玉ねぎが、皿の端にちょこんとまとめて残ってある。

「よく好きなものを最後まで残しておくタイプの人がいるって言うけど、赤也もそうだったんだね。早く食べたら?食事の時間終わっちゃうよ?もちろん残したりなんかしないよね。ね、真田?」
「食べ物を粗末にする奴は、グラウンド100周だ。」

「…………っ。」

(鬼だ。)
(鬼。)
(鬼よりひでぇ)
(といいますか、幸村君先ほど自分のピーマンと玉ねぎ真田君の皿に全て移していましたよね…)
(ピヨッ)

「ちっく……」

赤也は皿を手に取ると、目を瞑ってピーマンと玉ねぎを口の中へ放り込んだ。

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

皿を投げ捨てるようにしてテーブルに置くと、切原は食堂を飛び出して行く。


「なんだ騒がしい奴だな。」
「フフフ。ね、真田、そんなことより食後に熱いお茶飲みたいんだけど…。」
「む?そうか。わかった。今煎れてこよう。」
当たり前のように席を立つ真田に、柳達レギュラー一向は胸の中で、溜息をついて席を立った。

合宿所の食堂の料理は和食が多く、さっぱりしていてどれも美味しいのだが…。

(あの2人を一日見ていると激しい胸焼けが…)














「赤也」
部屋に戻ると、すっかり拗ねた切原は布団を被ってグスグス泣いていた。
「…さっきのは精市達が悪いな」
柳は掛け布団ごと切原を抱き寄せて頭(だと思われる部分)を撫でてやる。
「……っひっく。ぐすっ…やなぎ…せんぱい…」
「あの2人は駄目だぞ。違う世界で生きていると考えろ。自分の待遇と比較するだけ時間の無駄だ。」
「だって…っ」
「あのな、赤也。あの2人がどういう関係かは、薄々感ずいているだろう?あの2人はああやってお互いの距離のバランスをとってるんだよ。精市はわざとわがままを言って、どれだけ自分が甘やかされるかで、弦一郎の愛の深さを量ってるんだ。弦一郎もそれに気がついて、わざとやってるんだ。2人とも本音を吐くことが、死ぬほど苦手だから、ああやってお互いの想いを確かめるしかないんだ。だから……」
「わかってるっス」
切原は布団から這い出して、柳の胸に顔を埋めた。
「あの人たち…あまりにも身勝手だからちょっと文句言ってやりたくなっただけッス。あの2人の間にとって入ろうとか、そういう気持ちはさらさら無いっスから」

「そうか。お前はすごいな。皆が思っていても口に出せないことを、きちんと言葉にすることは、誰もが出来ることじゃない。」
「へへっ。柳先輩にもできないっすか?」
「そうだな。少なくとも今の俺にはできない。」

「柳サン」

赤也はぎゅっと柳に抱きついて言った。

「あの人達可哀想っすね。あんな遠回りで、回りくどい愛し方しかできないなんて。俺は違うっスよ?俺はちゃんと愛の言葉、言えますから。いいっすか柳さん…」




大好きです、先輩。
ずっとずっと先輩のことが、好きでした。







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