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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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「ん………。」
浜田の匂いのする布団で目を覚ます。気怠い腕を伸ばして目覚まし時計を取り寄せる。時刻は11時。

そうか…だいぶ寝た気がするけど…まだ昼前か…。


そう思って窓に目を向けると真っ暗闇が広がっていた。

「……夜じゃん」

思わずボソッと呟く。浜田の腕の中で眠りについた正確な時刻をおぼえていない…が外は明るく染まって雀が忙しく鳴いていた気がする。つまり夏休みの貴重な一日を俺は寝て過ごしてしまったことになる。


「おはよ~泉。ご飯できてるよ?」
むくりと布団から起き上がると気の抜けた浜田の声が聞こえてきてより一層俺は脱力した。
「おはよ~じゃねぇ…。浜田お前…今何時だと…」
「起こそうかと思ったんだけど…泉の寝顔があんまり可愛いもんだから起こせなくて、さ。昨日はいっぱいしたから疲れてるだろうし…」
「昨日はじゃなくて昨日もだろ!好き勝手やりやがって…」
素っ裸だったのでその辺に脱ぎ散らかしてある浜田のTシャツを引っ被る。
「でへっ」
目のやり場に困りながら浜田は恥ずかしそうに頭をかいた。
「キモッ」

腹が減っていたので、浜田の用意した飯をさっそく口の中に掻き込むことにする。


四日ほど前から俺は浜田のうちに泊りに来ている。浜田のうちと言ってもこいつは今一人暮らしだから気楽なものだ。夏休みに浜田の家に泊まり込むのは、幼い頃からの定番の行事で、一緒に花火大会に行ったりプールに行ったりそれはそれは楽しかった。


昔は、な。


一昨年ぐらいからだろうか。浜田と体の繋りを持つようになったのは。
夜が来ると浜田は朝まで俺を抱くようになった。俺は疲れ果てて鳥の囀りを耳にしながら眠りにつく。気がつく頃には夜が来ている。そんな昼夜逆転生活のせいで、どこにも行けなくなってしまった。

プールも海もネズミの王国も夏祭りも!

今年はまだどこにも行ってない。せっかくの夏休みだと言うのに!

「なにむくれてんの?」

ズズッと味噌汁を啜りながら浜田が言った。

「てめぇのせいで夏休みだってのにどこにも行けね~からだよ。今日は海に行く予定だったはずなのに…」
「泉が起きないのが悪いんだろ~。俺は行く気満面だったけど?」


嘘をつけ


浜田特製しょうが焼きを噛み砕きながら心の中で俺は毒づいた。


浜田はわざとやってるんだ。朝まで俺を犯して俺をヘトヘトにして…そしてわざと予定を狂わせる。
そうして俺をからかうのが楽しいんだろ。俺は知ってるんだよ、浜田の魂胆を。
それなのに術中にはまっちまってる自分が腹正しい限りだ。



「明日こそ絶対海に行く。だから今夜は絶対お前とは寝ない。ごちそうさま」

綺麗になった茶碗をテーブルに置く。寝汗をかいたからシャワーでも浴びようと思い立ち上がろうとした時にはもう俺は天井を見ていた。


「浜田ッ…!てめっ…!」

のしかかる浜田の体が重い。
「食後の運動しないと太るよ…泉。」

「ばかっ…!離せっ!今日は駄目だっ…て…あっんっ…やっやめっ…!あぁっ」



浜田の腕の中で、どうやら明日も海には行けそうにないなと…とろけそうな意識の中微かに俺は思ったのだった。




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今日はずっと前から約束していた水谷とのデートの日だった。俺達は部活や学校で毎日忙しい日々を送っていたから二人きりで出かけるなんて本当に久しぶりだ。
だから今日一日俺は水谷の前ではずっと笑っていたいと思った。笑っていなければいけないと思っていた。たとえどんなに胸が張り裂けそうでも…。







「はよっ」
待ち合わせ時刻の15分前。そこにはもう水谷の姿があった。
「おー。なにこれ?どうしたの?」
水谷は柄にもなく綺麗な花束を抱えていた。
「ちょっと、ね。栄口にプレゼントしたいのは山々なんだけど、今日ばっかりは駄目なんだ。ごめんなっ」
「………??誰にあげるの?」
「それはまだ秘密。」

締まりのない笑顔で水谷は言った。

「今日の行き先変更してもいいかな?急に行きたいところができちゃって」

本当は今日は映画館で今話題の洋画を見る予定だった。それはだいぶ前から水谷が見たいと言っていた映画だったのに…。

「別に構わないけど…どこに行くの?」
「行けばわかるよ。行こう」
苦笑した俺の手をひいて水谷はバスに乗り込んだ。
バスの中はひどく混雑していたから俺達が手をつないだままでいても気が付く人はいなかった。
水谷の手は見掛けによらず大きくて温かくて心地良かった。
小さい時よく母に連れられて手をつないでバスに乗った。母は免許を持っていなかったからどこか遠出する時はもっぱらバスや電車だった。
母はどこへ行くにも俺の小さな手を握り締めて離さなかった。どこへ行くにもずっと一緒に連れて行ってくれた…。



「栄口、ついたよ」
耳元に囁く優しい声で俺は目を覚ました。
「ん……あっごめん…俺寝ちゃって…」
バスが市街地から離れていくにしたがって乗客も疎らになっていった。一番後ろの席があいて二人で腰を降ろして…その後の記憶がなかった。 「バスの揺れって心地良いよな。俺もよく寝ちゃうよ。今日は栄口が気持ち良さそうに眠ってたから俺頑張って起きてたんだ。」

久しぶりに母の夢を見た。遠くに行ってしまった母。その母と手をつないで幼い自分がバスに乗っている夢だった。

勇ちゃん、窓の外を眺める時はお靴を脱ごうね。椅子が汚れちゃうから

懐かしい母の声。しかしあの声が本当に母の声であったのか自信はなかった。自分は母の声を聞かなくなって久しい。

「ひょっとして…ここ終点?」
「そうだよ。」

繋がれたままの手を引かれ立ち上がる。水谷は俺が眠っている間も手を握ったまま離さなかったようだ。気がつけば俺達以外の乗客は全ていなくなっていた。都心からはだいぶ離れた場所のようで緑溢れる山々が連なっていた。


でもなんだか…


見覚えのある場所。




「あ」

思わず声が飛び出して。

「気がついた?」


入口にかかれた霊園の名前。

「今日栄口のお母さんの命日なんでしょ?」
「なんで…」
「昨日練習の時元気なかったから…どうしたのかなって思って電話でおうちの人に聞いた。余計なことだったらごめん」
「…………いや…」

なんて答えたらいいのかわからなかった。

今日は母の命日だった。毎年この時期になると大好きだった母が亡くなった日のことや、お葬式のことを嫌でも思い出してしまう。
記憶が薄まって忘れてしまうほどあの時の自分は幼くなかった。むしろ鮮明に脳裏に焼き付いた記憶が今でも生々しく残っている。
だからといって自分の悲しみを大切な人にまで押しつけたくなかった。
なかなかできないデートならなおのこと。水谷の好きなこと、したいことに時間を費やしたいと思った。だからその日が母の命日であることは黙っていた。

「……あれ?」
気がついた時目から大粒の涙が零れ出ていた。
「栄口……」
ギュッと水谷に抱き締められる。
「栄口、俺の前では我慢しないでいいんだよ。辛い時に無理に笑わなくていいんだよ。」
「…っ……う…ん…」
「俺、栄口はもっと自分に対してわがままになっていいと思うんだ。栄口って皆に優しすぎて自分を殺しちゃう癖…あるだろ?そんな栄口を見てるのは…ちょっと悲しい。」
「みずっ…たに…」
「俺、栄口が好きなんだ。栄口の全てを受け入れたいと思ってるんだよ。わかるでしょ?」
「…う…ん…」
水谷は優しく俺の頭を撫でて涙を舐めとってくれた。
「それじゃあ栄口のお母さんに…会いに行こうか」

俺は返事をするかわりに水谷の手を強く握り返したのだった。





母さん。
今日母さんのお墓に添えたお花、綺麗でしょ?
水谷が買ってきてくれたんだ。今年は本当は来ないつもりだった。ごめんね、母さん。水谷がここまで連れて来てくれたんだよ。
さっき水谷にありがとうって言ったんだ。そしたらなんて言ったと思う?

俺が栄口のお母さんに会いたかっただけなんだってさ。


お母さん



彼が…俺の愛している人です。



「マジかよ…。」


そう呟いてしまったのは他でもない兄の部屋でヤバめの本を見つけてしまったからだ。それは俗に言うエロ本だとか…そういう類のものだが問題は中身で…。

その本は女体が露になったような本ではなく、同性の…つまり男同士が性行為を営む上での…その方法であるとか体験談だとかが詳しく書かれた本だった。
兄が同性愛者でないことは知っている。女性が淫らに写っているほうのエッチな本も兄は大量にベッドの下に隠し持っているのを俺は知っていた。それはカモフラージュにしては多すぎる量だったし、気に入ったページには折り目がついていた。だからベッドの下ではなく、本棚の奥底に隠されていたこの本に俺は驚きを隠せなかった。

気が狂ったのか、好きな男でもできたのか…。

あ、ちなみに一つ弁明しておくとこの本を発見したのは兄の留守を狙って部屋を漁り弱みを握ってやろうとかそんなつもりは更々なく、宿題をしていてどうしても解けない問題があったので、兄の参考書なり昔のノートなりを借りようと軽い気持ちで部屋に入っりうっかり発見してしまったのである。決して故意でないことを言っておく。


そっちの気のないはずの兄が惚れた男…。

一人だけ心当たりがなくもない。


と、その時俺の思考を遮断するようにうちのチャイムが鳴った。今家にいるのは俺だけだったので玄関にむかう。

「こっこんにちは~!あっ阿部君っ…い、いますか?」


扉を開けると、その心当たりがいた。

「あのさ…うちの家族皆、阿部なんだけど…。俺も阿部だし。俺に用でもあんの?」
「うっうひっ…!えっえっと…あっ阿部君っ…じゃなくって…タッタカヤ君ッいますか?」
「兄ちゃんならいないよ。本屋行くとか言ってたけど。約束とかしてないの?」
「ちっ近くまで来た…だけ…だから…いたら…会えるかなって…」
「……ふ~ん。上がれば?すぐ帰って来ると思うから。」「い、いいの…?」
「いいよ。今俺しかいないから何もお構いできないけどね。」


三橋さんはリビングの床に所在無さげに座った。落ち着かないのかキョロキョロしている。
「はい」

一応客だし麦茶をコップに注いで差し出すと三橋さんは露骨に嬉しそうな顔をした。

「あっありがとう!しゅ…しゅん君は…べべ勉強して…たの?」
テーブルに広がったままの教科書とノートを見て三橋が言った。
「夏休みの宿題。どうしてもわかんねーとこがあってさ。三橋さん…教えてよ」
「おっ俺…?!」
「三橋さん成績悪そうだけど一応兄ちゃんと同じ学校受かったんでしょ?教えてよ、ここ。どうせ今暇でしょ」
「うっ…わ、わかった…ちょっと…待ってて…ね」

三橋さんは数学の問題に取り掛かり始めた。うーん…なんて唸りながら。

ったく本当ニブイ人だ…。 年下の俺に馬鹿にされても気が付いてさえいないし。


兄ちゃんの好きな人はきっとこの人だと俺はぼんやり三橋さんを眺めながら思った。なんかわかる。最近よくうちに来るし。ほっとけないって感じがする。なんていうんだろうか…可愛い?
少なくともませたクラスの女子なんかよりよっぽど守ってあげたくなる感じ。

「ね~……三橋さんって兄ちゃんと付き合ってるんでしょ?」
「ななななななんでっ?!つつつ付き合ってないっよ!」
動揺し過ぎでしょ。顔が一気に真っ赤になっちゃって。面白れ~人だ。見てて飽きない感じ。
俺は一つハッタリをかけてみる。
「嘘。隠さなくてもいいよ。俺全部聞いてるんだから。兄ちゃんから全部。」

「ほ、本当…?」

「うん。ね、兄ちゃんっとエッチして気持ち良かった?」

「………………………う、うん」

耳の裏まで真っ赤にして三橋さんは頷いた。ってか兄ちゃん手出すの早ぇな…。


「なんだやっぱり付き合ってんじゃん。」

「えっ?!?!」

三橋さんはおっきな目を真ん丸にして俺を見た。

「いっ今の……うっう、そ…」
「ハッタリに決ってんじゃん。三橋さん、簡単に人信用しすぎ。兄ちゃんが話すわけないじゃん」

「ひひひど…いよ…」

「ねー…手が止まってるんだけど。早く解いてよ。わかんないの?」

「うぅ……」

三橋さんは今にも泣きそうな顔をしていた。問題に向き直るもわからないのか、騙されたことが悔しいのか…多分どちらともだと思うけど…すぐにポロポロ大粒の涙をこぼし始めた。

やっべー。その顔…すげー可愛いかも…。


「三橋さん、ごめんね。泣かないで。謝るからさ。」

気がついたら俺は三橋さんを抱き締めてこぼれ落ちる涙を舐めていた。



ガシャン




その音は俺と三橋さんの止まっていた時を突然現実世界に引き戻した。

「てんめぇ…しゅん…三橋になんて…ことを…」

その音は帰ってきた兄ちゃんが買ってきた缶ジュースを床に落とした音。青筋をこれでもかと浮き彫りにした兄ちゃんが俺をこれでもかとにらんでいた。まさに般若の形相で。
「あは……は…」





その後俺が兄に半殺しならぬ4分の3殺しほどの目に合わされたのは言うまでもない。



阿部君とはじめてした時、阿部君はやけに詳しくて昔の男の匂いがした。
俺はオロオロと泣いて痛がることしかできなかったのに、阿部君はやけに落ち着いていて…。はじめてなんだから痛かっただろっていろいろ優しくしてくれた。でも俺はあまり喜ぶことができなかった。きっとあの時の俺の状況を阿部君は過去に味わったことがあるのだと思った。


榛名さん、榛名元希、ハルナモトキ…。

阿部君と中学時代にバッテリーを組んでいた人。

速球の投手…。
俺とは違う…凄い投手。

カッコいい榛名さん…。

俺の憧れの榛名さん…。




榛名さんは阿部君の昔の投手で昔の恋人で………阿部君のたった一人の…ハジメテ…の人…。






「ね、三橋。なんで?」
阿部君が怖い顔して俺の腕を掴んだ。
「なな、なに…が…」
「んなこたいちいち聞かなくてもわかってんだろ。なんでやらせてくんないの?」

阿部君はいつでも直球だ。
はじめての行為を思い出して俺は羞恥心から赤くなってうつむいた。阿部君の顔が見れない…。

「なんでそんなに嫌がんの?はじめてした時は…そりゃ最初は痛いって泣いてたけど…後のほうはお前も気持ち良さそうだったけど?」

「やっだ…その話はしない…で…」

阿部君の力に俺は勝てない。それをわかっていて小さな抵抗を俺は繰り返した。阿部君が怒ることはわかりきったことなのに。

「なんで…二回目は駄目なんだよ。」

阿部君とセックスするのが嫌なんじゃない。

行為の過程で阿部の過去を知るのが嫌だった。

俺のハジメテは阿部君だけど、阿部君のハジメテは俺じゃないんだ、永久に。

阿部君のする行為の中に榛名さんが垣間見えた。なんだか榛名さんから阿部君を借りているような気がした。3年間のレンタル期間が終了したら、阿部君を返さなければいけないような気がした。

阿部君は永遠に俺のものにはならないのだと突き付けられている気がした。

だからしたくなかった。いつまでたっても今更次の行為を拒む俺を阿部君は怪しんだ。


「したくない、んだな。本当に。」
「う、うん…」
「わかった。お前の気持ちはよくわかったよ。」

阿部君はこれみよがしな大きな溜息をついた。

「本当は俺のことなんか好きじゃなかったんだろ。お前のことだ、断れなくてつい頷いちまったんだよな。そのままズルズル最後までやっちまって…もう嫌になったんだろ。だから…」

「阿部君ッ…違ッ…!」

「違くねーよっ!!!」

ガシャンという音。

阿部君が思い切りロッカーを殴ったのだった。ベコリと小さくロッカーが凹んだ。

「…っ…あ…べ…君…ちがっ…」


あああ阿部君が怒って…る…!

怖くて怖くて俺は思い通りに口を動かすことができなかった。

口の中が塩辛くて俺は自分が泣いていることをはじめて知った。


「………ちくしょう。一人で舞い上がってお前にそんな負担かけてたこともわっかんねーで…自分が情けねーよ…。」

阿部君は小さく震えた声で呟いて部室から出て行った。ひょっとすると泣いていたのかもしれない。
阿部君は俺を置き去りにしたまま戻ってこなかった。





阿部くん…俺…阿部くんが…好きっだよっ…

本当は本当は凄く好きっ…なんだっ…誰にも負けないくらい…好き…だから怖い…怖いよ…阿部くん…
阿部くん…がっずっと俺の隣にいて…くれるなんて…信じられっない…んだっ


阿部くん……俺…こういう時…






どう、したら…いいの?


秋頃から栄口は少しずつ、おかしくなった。
なんだかいつも上の空で、物悲しげで、切なそうだった。人知れず溜息をつく彼を、俺だけが知っていた。

栄口を好きな俺だけが知っていた。俺だけがいつも人目を盗んで栄口を見ていたから。栄口はきっと物悲しい恋をしていたんだと思う。なぜなら俺も悲しい恋をしていたから。だから栄口の辛そうな表情を見た時にピンときたのだった。栄口も俺と同じ報われることのない悲しい恋をしている。


冬頃栄口はまた少し変わった。綺麗になった…と思う。アイツといることが多くなって笑顔が増えて…。
栄口は暗いトンネルの闇から抜け出したのだった。俺一人をその場に残して…。


「栄口はさ…」

雪の積もった真っ白なグラウンド。今日は室内でミーティングか筋トレぐらいしかできないだろう。早々と視聴覚室につくと栄口だけが一人頬杖をついて、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

ドクンドクンと胸が高鳴って締め付けられるようで痛くて死んでしまいそうだった。


「栄口ってさ…巣山と付き合ってるの?」


答がイエスであることを心の奥底では知っていた。それでも尋ねずにはいられない無粋な自分が嫌だと思った。

「そうだよ」

栄口はこっちを見なかった。未だに降り続く牡丹雪を眺めていた。
静かな栄口の声が俺の胸をえぐる。痛かった。痛くて痛くてたまらなくて…。

「男同士なのに…おかしいだろ…そんなの」

これは俺の本音じゃない。俺の理性だ。そう言い聞かせて俺はずっと我慢してきた。男同士なのにおかしいじゃないか。男の俺を栄口が好きになってくれるはずがないんだ。
体よく言えば俺はその言葉を謳い文句に逃げていたにすぎなかった。自分の想いから。だって怖かった。嫌われるのが怖かった。



「そんなこと水谷には関係ないだろ」


栄口は冷たかった。

神様なぜですか。なぜ俺じゃないのですか。

俺の気持ちは宙に浮いたまま、逃げたまま、傷だらけでのたうち回っている。
誰も教えてくれない。誰も救ってくれない…とどめすら…さしてもらえない…。


「おかしいよ…そんなの…」
セーターをギュッと掴んで俺は最後の抵抗に試みる。

こんなことしたってどうにもならないことはわかっていた。少なくとも栄口が俺に心変わりしてくれるはずがない。

「巣山といるとさ…心の中が満たされるんだ。心の中が温かくって、辛いことも嫌なことも全てどうでも良くなって…忘れら」
「もういいよっ!!!」

大声を出して俺は栄口の話を遮った。

こんな話が聞きたかったんじゃない。こんな結末を望んでなんかない。


どうして……


どこからおかしくなってしまったんだろう…


俺が逃げてばかりいたからいけないの…?


「そんな話聞きたくない…聞きたくないよっ…」

顔を両手で覆う。声が震えた。小雪のように一瞬で消えて死んでいく俺の声…。


「水谷ってさ…俺のこと…好きなんだろ?知ってたよ…ずっと前から…さ」

「さかっ…えぐち…」

「俺、水谷のこと嫌いじゃなかった…好きだったんだ…はじめは…でもさ…水谷はいつも…見てるだけで俺の気持ち…助けてくれなかったね。もう今更な話だけど…」


栄口は振り返ってまっすぐ俺を見た。ゆっくりと口を開く…

「うっ…いやだあああああ」
最後に突き付けられるであろう言葉に恐れて、俺はその場を逃げ出した。

走って走ってがむしゃらに走って…途中で巣山とすれ違った。三橋とすれ違って、花井と阿部とすれ違って…はっきりと顔を見たわけじゃないのに、なんだか皆が俺を嘲笑っている気がした。




よ、わ、む、し





頭の中の栄口が俺にそう囁き続けている。




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