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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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ずっとずっと彼が好きだった。その恋が実ることがないことは直感で知っていた。だからと言って想いを簡単に振り切ることができるほど人は単純じゃあ…ない。


あいつとは中学が同じで…ああ、だからと言って同じクラスになったことはないのだけれど。出会いはシニアの大会で。あいつは一つ上の先輩とバッテリーを組んでいた。あいつはもう覚えてないだろうけど、一度だけあいつのチームと戦ったことがある。当時の俺は榛名さんからヒットを打つことはできなかった。完全な負け試合。
最後の打席で三振した時、突然あいつは俺にこう言った。
「アイツの球、打てないだろ。」

ああ、こいつは自分の投手が自慢なんだなって思った。尊敬してるんだな。好きなんだろうなって。

そういうのいいなって思った。

それから気がつけば、校内でアイツを見掛けると目で追うようになっていた。
でも知り合いのように話かけることがどうしてもできなかった。


中学三年になった夏、進路指導室の掃除当番だった俺は偶数アイツの進路希望を見てしまった。


第一志望 西浦高校


西浦って野球部あっただろうか。いやその前に榛名さんは武蔵野第一に進学したって噂を聞いていた。武蔵野に行かないのか。なぜ。良いバッテリーに見えた。シニアを卒業したって同じ高校で甲子園を目指すんだろうなってなんとなく俺は思ってた。


気がついた時には、俺も第一志望を西浦にしていた。



晴れて西浦に入学した俺とアイツはもう他人じゃない。
チームメイト。掛け替えのない繋りを俺はやっと得ることができた。



「なぁ…栄口」
部室で雑誌を読んでいると、他校のデータをまとめていたアイツがふいに言った。

「三橋…って好きな奴いんのかな?」

ああ。君の目には投手しかうつらない。俺が投手だったら運命はまた少し変わっただろうか。

俺は答える。懇親の笑顔で。どうかこの笑顔が作り物だとバレませんように。

「阿部だろ。」

「…じゃあさ俺の好きな奴って誰だと思う?」

「三橋だろ。」


「…やっぱりそうか」

ニヤッとアイツは笑った。

本当こいつって…


俺は雑誌を閉じて鞄にしまいながら言った。

「お互いの気持ちがわかってるなら、早くくっついちゃいなよ。三橋が可哀相だよ。俺この間三橋に恋愛相談されたよ。」

溜息をついて立ち上がる。三橋の事も好きだった。友達として。だから三橋の力になってやりたいって思ってしまう自分は馬鹿だ。


「俺、帰るよ。また明日な。阿部も早く帰れよ。」
「栄口」

ドアに手をかけた時アイツは言った。

「ごめんな。」

アイツは俺の気持ちにとっくの昔に気がついていたんだ。

「水谷がお前に惚れてる。多分巣山も、な。今好きな奴の事なんて忘れちまえ。大切にしてもらって、幸せになれよ。お前の笑顔、辛そうで見てらんねぇ」

「…余計なお世話だよ」



部室を出る。滝のように涙が溢れ出た。涙で視界がぼやける。輝く月が歪んで見えた。

本当…




阿部はヒドい奴だよ。







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三橋と叶がカフェでお茶をしている。その姿を俺は植木を挟んだ反対側からこっそり覗いている。
「なんで俺まで…」
半泣き状態の水谷を軽く小突く。水谷は更に「俺は今日栄口と二人っきりでデートのはずだったんだぁ~」と膝を抱えて泣き出した。
チッと俺はオペラグラス越しに三橋の姿を眺めながら軽く舌打ちする。
「コーヒーおごってやったろうが。お前は友達のピンチより自分の幸せを選ぶのかよ。」
「あはは。その台詞、阿部にそのままお返しするよ。あっウェイターさん、モンブラン二つ追加で。」
片手をあげて店員を呼び止めながら栄口が笑顔で告げる。チッとまた一つ俺は舌打ちした。ここの会計は全て俺持ちなのだ。
一人では何かと心配だったのでこの二人を引っ張ってきたのだが…明らかに人選ミスだった。水谷は泣き叫ぶだけだし、栄口はやたら俺の財布を消費するだけでまったくもって役に立たず。花井と泉にすれば良かったぜ…。

「三橋…」

今日一日、三橋の後をつけている。浮気すると宣言されてはいそうですかと黙って自宅に待機なんてできるものか!
朝、叶が三橋のうちまで迎えにやって来て、二人は都内に出た。都心で買い物を楽しむ様子を俺は歯ぎしりしながら尾行した。

くそっ…俺だって…三橋と仲良くショッピングなんかしたことないんだぞ…

「それは阿部がすぐ三橋を自分の家に連れ込みたがるからだろ…モグモグ」
ショートケーキを口いっぱいに詰め込んだ栄口が余計な事を口走る。

「今日は栄口と二人で映画に…」
「水谷!黙れ!」


うつむいたままミルクティーを飲んでいた三橋に叶が言った。

「廉、なんかあったのか?今日のお前どことなく上の空っつーか…空元気つーの?」

「かっ叶くん…」

「悩みがあるなら言ってみ?力になるからさ」

「叶君…おっ俺…阿部くんと…喧嘩しちゃって…」

「阿部…?ああ…あの性格悪そうな西浦のタレ目か。」

叶…お前…次会う時覚えてろよ…。

「かっ叶く…っ」

三橋はポロポロと大粒の涙をこぼして泣き出した。

「俺っ阿部くんの事が…好きなのにっ…そう言ってるのに…阿部くん…信じてくれなくて…」

み、三橋…。

「三星の皆のアドレス消されたりっ…とか…叶くんっと会っちゃ駄目っとか…おっ俺が信用できない…から阿部くんは…そうするんだよね…俺どうしたら阿部君に…信用して貰えるのっかな…」

「三橋…。」

叶がヨシヨシと三橋の頭を撫でている。

俺は呆然とそんな三橋の姿を眺めていた。


「三橋の気持ち、わかった?」
と栄口。



ああ…。
俺は自分の気持ちを三橋に押しつけるばかりで三橋の気持ちなんてちっとも考えた事がなかったんだな…。
いつも俺の一人相撲で…。

三橋が俺のせいでこんなに悩んで苦しんでいるなんて考えた事もなかった。


三橋を信用してなかったわけじゃない。あいつを見てると危なっかしくて…心配だったんだ。目を離した隙に消えてしまいそうで…怖かった。

三橋を失うのが怖くて三橋の気持ちを見落としてた。




俺は携帯を取り出すと『昨日はごめん。もう何も言わねぇから叶と二人で楽しんで来いよ。』とだけ打ち込んで三橋に送信した。


俺に足りなかったものがある。

それは三橋を信用すること。


「水谷、栄口。今日は悪かったな。俺、帰るわ。後は二人で仲良くやってくれ。邪魔して悪かったな。」
「阿部…」




近場の駅から電車に乗り込む。
今頃三橋は叶とどんな話をしているんだろう。気になる。気になるけど、いいんだ。 三橋の全てを俺が貰おうなんて、俺が傲慢過ぎたんだ。 三橋にだって恋人以外に大切にしたい人がいるんだ。
俺はその事実を受け入れなきゃいけないんだ。

そんなふうに少しセンチメンタルな気持ちに浸っていたらポケットの中の携帯が振動した。



そう言えばさっきの会計代渡すの忘れたな…栄口あたりが戻って来て金払えってことだろうか。



携帯を開くと愛しい名前が目に飛び込んで来た。



『今から帰ります。昨日はごめんなさい。浮気なんて嘘です。これから会いませんか?阿部君に会いたいです。阿部君が一番に好きだから』




三橋。
俺もお前が好きだよ。
この地球上で、誰よりも。
「ね、三橋。今週の日曜日なんだけど」
そう切り出した俺に、三橋はめずらく首を降った。
「ご、ごめっ……」

あからさまな否定に少し頭に来る。三橋と付き合いはじめて3か月。本当は早く手を出してしまいたかったけど、怖がらせちゃいけないと思ってずっと耐えて来た。でも3か月たったしそろそろ一線って奴を越えてもいいかなぁなんて思ったりして……つまり。

週末俺は練習が休みなのを良いことに三橋をホテルに連れ込んで、これでもかと抱いてしまおうかと計画していたのだった。三橋だって俺を好きだって言ったんだ。嫌とは言わないだろ。


「なんで?なんか用事でもあるの?」
「う、うん…。あっあの…修ちゃんが…」
「修ちゃんだぁ…?」

修ちゃん。つまりあいつだろ?三星の…三橋の憧れの投手。

「修ちゃんと…会う約束があるっから…ごめっんね…」
「断ってよ」
「…………え?」
「練習休みの日なんてほとんどないんだぞ?三橋の恋人は誰?俺だろ?だったら俺を優先すべきじゃないの?」

少し意地悪な口調でそう言ったのはわざと。三橋と叶を二人きりで会わせたくなかった。三橋は今俺のものだけど、過去の二人がどんな仲だったのか…想像するに俺の妄想力は巧まし過ぎる。


「でっでも…修ちゃん…との約束の…ほうが…ずっと前から…で」
「口約束はしてなかったけど、俺は明日ずっと三橋と過ごすつもりでいたよ。三橋も同じだとばっかり思ってた。三橋は違ったんだ?」
「阿部く…ん。意地悪言わないっで…」
「意地悪ってなんだよ?三橋の恋人は俺だろ?叶じゃない。どっちを大切にするかなんて明白だろ!」

もう一押しすれば、うんって頷くかななんて考えていた俺が甘かった。

三橋はもっと頑固だった。


「修ちゃんと会うって、言ってる、でしょ!?!?」

三橋が顔を真っ赤にして俺を怒鳴った。西浦のメンツが全員俺達を振り返る。仰天するのも当然だ。正直俺もビビった。三橋が俺に怒鳴るなんて考えたこともなかったんだ。
「だっだから駄目ッ!!!」
「ああそうかよ!そんなに叶が好きなら叶とどこへでも好きなとこに行けよ!ついでにヨリも戻しちまえ!」

三橋に怒鳴られたことがショックで気がついたら俺はとんでもないことを怒鳴りかえしていた。ああ、三橋…本気にとらないでくれよ…なんて思ってももう遅い。三橋はそんなに器用じゃない。そんなこと俺が一番よく知っているはずじゃないか。


「そっそう…するッ!俺叶くんっと…浮気するっから!じゃあねっ!」
最悪のキメ台詞を叩き付けて三橋は今にも泣き出しそうな顔で部室を飛び出して行った。

あ~…やっちまったな…俺。三橋には強気で押して行きさえすれば良いんだって俺思ってた。三橋は根が弱気だから俺に逆らえるはずないって俺天狗になってたみたいだ。三橋だって怒鳴って怒ったり…すんのな…


「あ~喧嘩だ喧嘩ぁ。阿部が三橋を怒らせたぁ」

俺のイライラを加速させるクソレの声がした。

「びっくりしたぁ。三橋も人の子だったんだなぁ。あんなに顔真っ赤にして怒るとこはじめてみたよ。阿部なにしたの?」

これは下痢野郎の声。うるさい黙れ。俺は当然の権利を主張しただけだ。

「三橋、今頃泣いてんじゃね?大丈夫かなあ」
これは田島の声。お前ら黙れ。本当に泣きたいのは俺だぞ…。こんなことで三橋を叶にとられたら…。

「後悔することになる前にさっさと謝っちまったほうが得だぞ。意外と三橋って頑固なとこあっからな」
とこれは泉の声。

お前ら…ほんっと…俺の味方をする奴はいないのか…

「するわけないじゃん!阿部はヒドいや……ぎゃっ痛いッ!」
クソレフトが言い終わる前に俺は思い切り脛を蹴ってやった。

「ひ~ん栄口~…阿部が蹴ったぁ~…」
「あ~…はいはい。ヨシヨシ」

くそっ。なんでだ三橋…。俺より叶のほうが良いって言うのかよっ!ダンッと机を叩く。そんな俺の姿を見てはぁと溜息をつきながら
「阿部は三橋を束縛しすぎなんだよ。三橋はお前の所有物じゃないんだからな。」
と花井。俺は何も言ってないのに心を読んだようにそう言った。

ひょっとして喧嘩の原因バレバレか?


「ま、想像はつくよ。阿部ってさぁ三橋の人間関係とか考えたことあるか?」
「三橋の…人間関係…」
「阿部さぁ…お前この間三橋の携帯から勝手に三星の奴等のアドレスと電話番号全部消去したんだって?」
「…それが何?」
「それが何って…お前…三橋が可哀相だと思わないのか?」
「それじゃ花井は三橋が三星の奴等にとられても良いって言うのかよ?」
「……あのな、お前な。」

花井が脱力した。

俺なにか間違ったこと言ってるか?

「阿部さぁ、三橋が叶と電話してる時、三橋から携帯取り上げて無理矢理切ったってマジ??」身を乗り出して聞いてきたのは田島だ。

「悪いかよ?」


うんうんと頷いて聞いていた西浦のメンツ達は口を揃えてこう言った。



「三橋の気持ちがわかるなぁ。」


なんでだよ?!

ついでに栄口が満面の笑みを浮かべてこう俺に囁いた。
「阿部には良い薬だね。一度くらい三橋に浮気されてみるのも良いんじゃない?」


三橋の浮気…ははっまさか…ね…。三橋、さっきのは言葉のあやだよな?ついうっかり言っちまっただけだよな?

三橋が好きなのは俺だよな?


俺の不安はつのるばかりだった。






愛なんてなくても生きていける。むしろない方がいい。ない方が綺麗に生きれる。

それが俺が今まで生きてきた中で学んだ人生観だ。


俺の初恋は中学一年の時だった。自分で言うのもなんだがヒドい恋だったと思う。

野球部の顧問だったアイツは、俺なんかよりずっと大人でズル賢こくて小利口だった。俺はアイツに認められるのが嬉しくて褒められたくて、無理をして肩を壊した。

本当は心のどこかでわかってたんだ。俺が望むような意味で監督が俺を好きでいないことぐらい。それでも身を焦がしてでも俺が俺の気持ちを貫けば、いつか監督はわかってくれるんだって…俺だけを愛してくれるんだって…大切にして貰えるんだって…そう信じていた。


そう考えていた俺が馬鹿だった。結局肩を壊して使えものにならなくなった俺はあっけなく捨てられたのだった。そうまるで……使い捨てのインスタントカメラのように。


だがこれも良い経験だったと大人になった俺は考えているんだ。

愛したほうが馬鹿をみるんだって学んだからな。

俺は二度と人を愛さないと決めた。自分のためだけに生きていく!そうアイツのように!





「ね、榛名。俺榛名のことが好きなんだけど」

そう秋丸が言い出したのは夏も終わろうとしていた…あの日。あの日のことはよく覚えている。末期の蝉の鳴き声が耳鳴りでならなかった。

「榛名…?」
「好きとかいうな。気持ち悪ぃな!」

愛だの恋だの皆騒ぎ過ぎなのだ。
所詮は幻想、妄想、一時の気の迷い、なんだよ。

いつか失う不確かなもののために必死にならなきゃならない理由が、俺にはもうわからない。


「ごめん」

秋丸は小さく一言だけそう言った。



ごめん。愛してる。


榛名がなんて言おうと、なんて思おうと俺は榛名を愛していて、もうその気持ちに嘘はつけない。



ごめんな、榛名。



愛して、ごめん。





秋丸はそう言って俺を抱いた。俺は秋丸の言うことがよくわからなかった。

そしてまた俺は大人の原理をまた一つ学んだ。

愛がなくてもセックスは可能なのだ、と。


愛なんていらない。愛なんていらないのだ。



なのになんでだろう。


あの日から俺は人知れず涙を流す。胸が痛くて辛い。この気持ちがなんなのか俺は知っていた。遠い昔の俺はあの日の秋丸だったから。


愛してしまって、ごめんなさい。



俺は泣きながら監督にそう言った。



コントロールできないもどかしい気持ち。



俺はなぜだかもう一度監督に会いたいと思った。本当は俺は監督を恨んだりなんかしてないのかもしれない。監督を愛したことを後悔なんかしてないのかもしれない。



本当の俺は秋丸を愛しているのかもしれない。




もう一度監督に会えば、全ての答が手に入る気がした。



秋丸、こんな俺でごめんな。






「ん……」
対戦校のデータをまとめていたらいつの間にやら寝てしまったようで、気がついた時には机に突っ伏していた。

目の前をフヨフヨと透明な膜の球が何個か横切って静かに割れた。あれだ…随分懐かしいものを見たな…しゃぼん玉…っつーの?



「あっ阿部君、起きた、の?」
のっそりと起き上がるとしゃぼん玉用のストローと原液の入った小さな小瓶を持った三橋が隣にちょこんと座っていた。

「……お前、なにしてんの?」
「あっあのね!阿部君寝ちゃった…から皆起こそうって言った…んだけど、気持ち良さそうだった…から俺が待ってる…から皆に先に帰っていいよって…言ったんだ、よ!」
「へぇ。そりゃドーモ。で、それは何?」

確かに室内には俺達以外人の気配がしなかった。俺は三橋の手の中のものを指差す。

「しゃ、しゃぼんだまっ…だよっ!」

「いや…それは見りゃわかるけど。それどうしたの?」

「たっ田島く…んがくれたっ!待ってる…間暇だろうからって…」

「ふーん…」

窓の外は真っ暗だった。今何時かわからないけれど、三橋が俺のために時間を持て余しながらも俺のために待っていてくれたのが嬉しかった。

「それ、貸して。」
「ど、どーぞっ!」

三橋からストローと小瓶を受け取る。懐かしい匂いがした。そういや小さい頃よくこんなんで遊んだっけ。シュンとよく取り合いの喧嘩になったよなぁ。



「!」



ストローを口につけようとしてハタと我に返った俺は硬直した。


(こっこのまま口つけたら間接キ…ス)



やべっどうすっか…あ~…三橋が見てる。

「ど、どうしたの?た、楽しいよ!」


固まった俺を催促する三橋。お前はいいよな。下心とか考えたことないだろ?
ま、とりあえずせっかくだからご相伴に預かったって罰はあたんねーよな。ハァハァハァハァァハァハァァ…


「ごふっげふっごふっ」

「あっ阿部くん?!」

いきなり咳込んだ俺に三橋が慌てて俺の背中を擦る。
やべっオロオロした顔も可愛いな…オイ…


「どっどうしたの?!」
「ゲフッ…いやつい思いっきり吸っちまって…息吐くんだったよな…」
「のっ飲んだの?!だっ駄目だよっ!!体に毒だっ…!」「大丈夫。次はちゃんと…」「だっ駄目だっ!」

三橋は俺からしゃぼん玉を取り上げてしまった。

「三橋~…お願いだからもう一回だけ」

「駄目。次間違えたら…大変だ…から」

珍しい強気を見せて三橋はさっきまで俺がくわえていたストローでしゃぼん玉を作りはじめた。
こうなると三橋は意外と強情なのを俺は知っている。俺のことを心配してくれているのかと思うと嬉しい限りだが、誠に惜しいことをした気がする。




チラッと三橋を盗み見る。三橋は無邪気にしゃぼん玉を楽しんでいた。




しゃぼんだま 飛んだ


屋根まで飛んだ


屋根まで飛んで


壊れて 消えた



三橋は随分と悲しい歌を楽しそうに口ずさむ。
俺は思う。三橋こそしゃぼんだまだった。はじめて会った頃なんかボロボロですぐに壊れて消えてしまいそうだった。



俺は誓う。三橋を守ってやる。壊れて消えるなんて許さない。俺がこいつをもっと強くして、屋根なんかよりずっと高いところまで連れてってやる。



か~ぜか~ぜ吹くな


しゃぼんだま 飛ばそ




歌が終わると自然と室内は静寂に包まれる。


「ね、阿部くん」


ストローをくわえて新しいしゃぼんだまをふんわりと作りながら三橋は言った。


「間接キスだ、ね。ウヒッ」




おっと。
三橋に下心がないなんて誰が決めたんだ?

三橋もいっちょ前のオトコノコだったのだ。
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