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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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注意:死ネタです。

原作が捻じ曲がっています。

それでも宜しければどうぞ。


ゲームセット

ウォンバイ 真田

7ー5


審判の声が響き渡る。


「勝った…のか…」


いや負けたと思った。越前の最後のショットがほんの数ミリ、アウトだったのだ。

(おめでとう、真田)

「ゆきっ…!」

ベンチを振り返る。確かに幸村の優しい声が聞こえたと思ったのだ。

「弦一郎…?」

タオルを渡そうと隣に歩み寄っていた柳が怪訝そうな顔をした。

「いや…なんでもない…。幸村がベンチにいたような気がして…」

「精市も今頃手術室で頑張っているはずだ。よくやったな、弦一郎。」

柳の手から白いタオルを受け取ろうとする。

ヒラリとタオルは真田の手を避けるようにコートに落ちた。

嫌な予感が真田の胸を締め付けて離さない。

「は…はは…。手に力が入らんようだ。」
「…無理もないさ。凄い試合だった。」

しゃがみこんで真田はタオルを手にとった。柳も嫌な疑念が拭えないのか、眉を潜めている。

勝ったのに。
優勝したのに。
幸村との約束を守ったのに。

(どうしてこんなに不安にかられねばならぬのだ…!)


「さ…真田く…ん」

携帯電話を耳に当てたまま、目を見開いた柳生が、呆然と真田の名を呼んだ。

「今病院から電話が…幸村君が…」


真田の世界が闇に包まれた。












幸村の病室に辿り着いて、その安らかな寝顔を目にしても真田には実感がわかなかった。

布団の中に眠る幸村は今にも目を醒まして、おはようと真田に微笑みかけてきそうだ。
「ゆきむら…」

そっと幸村の頬に触れる。
ゾッとするほど冷たい体温が、真田に現実を突き付けた。
それは今を生きる人間の常温とは、かけ離れた冷たさだった。

「うああああん」

切原の泣き声が、病室に響く。

「ぅあああああああ」

子供のような声だった。顔中をぐちゃぐちゃにして切原は泣き叫んだ。
切原の泣き叫ぶ声が引き金となって、病室は咽び泣く声で溢れた。柳も柳生も丸井も仁王も泣いていた。

真田はその異様な光景をただ呆然と眺めていた。

(なんだ…)

涙が溢れ出ることもない。

真田には目の前の現実を理解することができなかった。

(なんなんだ…これは…)


「なぜ…皆泣いているのだ?」

呆然と立ち尽くしていた真田は言った。

「幸村…?お前、いつまで寝ているつもりなのだ?たるんどるぞ?皆が誤解してしまうではないか…幸村…」

「弦ッ一郎…」

柳が見開いて真田を見る。細く切れ長な眼から涙がつたってはつたっては零れ落ちてゆく。

切原の泣き声が響いていた。
「泣くな!」

パシン、と真田は思わず切原を殴ってしまった。

ガシャンと大きな音がして切原はパイプイスに突っ込んで倒れた。

「真田!」
「さなだ…ふくぶちょ…殴っ…」

一瞬眼を見開いて泣きやんだ切原は、頬を押さえた。何が起こったのかわからない、という表情だった。

「ふぇ…うぁ…あああん…」
切原は側にいた柳にすがりついて、また大きな涙の粒を零していく。

「弦一郎…」
「すまん…頭を冷やしてくる」
真田は病室を出た。

(何なのだ…)

(何なのだ…)


真田は屋上に出た。晴れた温かい日は、よくこの場所に幸村と来た。

幸村はベンチに座り、真田はその横に立って、様々な話をした。


(幸村…)


(嘘だ…皆でまた俺を騙そうとしているのだ…そうだ…そうに決っているのだ…。あんな穏やかな顔の幸村が、死んでいるはずがないではないか。そのうち幸村は、皆を連れて「冗談が過ぎた」と苦笑しながら誤りに来るに決っている…。)

真田はベンチに腰を下ろした。太陽が照り輝く真夏のはずなのに、なぜか寒かった。寒くて寒くて仕方がない。自分の肩を抱いて、真田はうずくまった。

幸村と交わした会話を頭の中でずっと反芻していた。

あの日あの時の幸村の言葉、表情、繋いだ手の温度…。

抱き締めた時の幸村の肉体の柔らかさ。唇の厚みと弾力。幸村の汗の味。精液の味。

(幸村…冗談が過ぎる…早く…早くむかえにこんか…)




「弦一郎…」








柳の声で真田が気が付いた時、当たりは暗くなっていた。いつの間にか眠ってしまったらしい。

ほの暗い闇の中でも、柳の眼が赤く腫れているのがわかった。


「夢を見た。幸村が笑っていた。」

「弦一郎…。」

「皆はどうした?」

「帰らせた。面会時間はとっくに終わった。俺達も帰らないと…」

「そうだな…。」

「最後に幸村にあってやってくれ。」

「ああ…。」

「弦一郎」

「なんだ」

「精市の寝顔…安らかだな」
「………。」

「お前がいて、精市は幸せだったんだな…」

「やめてくれ…そんな話は…」

「弦一郎…。」









病室に戻ると、部屋を出た時と変わらぬ姿で幸村は眠っていた。窓から入る月明りが、幸村を優しく照らしていた。どこまでも眠る幸村の顔は穏やかだ。

「幸村…」

(そうか…)

真田は穏やかに笑って幸村を抱き起こした。意識のない幸村の体は重い。真田はぎゅっと冷たくて、ぐったりと動かない幸村を強く抱き締めた。
「よく頑張ったな…」

真田は優しく幸村の頭をゆっくりと撫でた。

「お前はよく頑張ったのだ…凄いぞ…凄いのだ…お前に適う奴などいないのだ…幸村」


怖くなかったのだな。
恐れなかったのだな。

心穏やかに逝けたのだな。

俺の祈りがお前を守ったのだな。



「俺も怖くなかったぞ。恐れることなくコートに立つことができた。お前の祈りに…守られていたからだ…。ありがとう。お前に守られていたから、俺は勝てたのだな。」


真田の瞳から、静かに一滴の雫が流れ落ちて行った。




愛している。
愛しているよ、幸村。


これからもずっと。


お前は俺の誇であり、永遠の目標であり英雄だ。


俺は永遠にお前に祈りを捧げよう。

俺の祈りが、お前を守るのだ。

永劫に。



俺は永久にお前のものだから。



俺達は無敗で、お前の帰りを待ち続けよう。

永劫に。












×××××
すいません…。ミュの真幸ソングを聞いていたら原作と真逆の展開の話が書きたくてたまらなくなりました。



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