ちょっとした短い小説の掃き溜め。
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(※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず)
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とある日、真田が幸村の病室の扉を開けると昨日までとは別人のように洗練された彼がいた。
彼は、彼だ。
だがしかし、一目見て、その彼が昨日までとは打って変わって別人のような輝きを放っていることに真田は気付かされた。
昨日までの幸村はまるで死人のようだった。
オキシドールの匂いの染み付いた白い檻の中に、閉じ込められた蝋人形のようだった。
虚ろな眼差しで、虚空に視線を泳がせ視点が定まっていなかったし、どんなに熱意を持って話しかけても、幸村は上の空だった。
しかし今日の幸村は全身から眩いほどのオーラを放っている。
顔の表情がくっきりしていて、瞳が大きい。
精気が漲っている。
「真田、俺わかったんだ!」
真田が扉を開いた瞬間に、幸村は叫ぶようにそう言った。
真田は目を見張った。
まるでその病室でいつものベッドに横たわっていた幸村は、病に蝕まれる前の彼そのものだったのだ。
過去に遡ってしまったのではないか、と一瞬真田が考えて込んでしまうほどだった。
「何が、わかったというのだ?」
真田は一呼吸おいて病室に入ると普段から愛用している折り畳みのパイプ椅子に腰を下ろした。
「幸福についてだ!」
ハキハキと幸村が言う。早く頭の中にある考えを、言葉にしたくて、吐き出したくて、ウズウズしているようだった。
「ほう。」
「幸福とはなんなのか、俺はわかったんだよ、真田!それは突然のことだった。激しい夕立のようにそれは突如俺の頭の中にいきなり降ってきたんだ!その瞬間に俺は全てわかってしまったんだ。俺の求める幸せとは何なのか。」
「ほう。」
懐かしさがこみあげる。こんな幸村の姿を見るのは久しぶりだ。それは病で倒れる前の彼の姿だった。
毎日コートに立っては、ああしてはどうだろう、こうしてはどうだろう、とテニスに明け暮れている時の眩い彼の輝いた表情だった。
幸村は自分で立てた命題を、様々な人間に問いかけながらも誰の答えにも依存しないのだった。
ありとあらゆる意見を受け入れつつも、自分が納得のゆくまで考え込むのだ。そしていつも突然の閃きで、解決してしまうのだった。
それは神が彼に与えた能力と言って過言ではないかもしれない。
「真田、俺を好きになれ。」
「なに?」
彼はいつも唐突だ。真田の目が点になる。
「俺は、昨日までどうして自分はこんなに不幸なんだろうって考えていたんだ。常人ならば掛からないような奇病にかかって、ベッドの上から動けなくなって。急速に世界が萎んでしまって。このまま死んでしまうかもしれない。ああ、俺はなんて可哀想なんだろうって。それまで俺はテニスでの成功ばかり考えていた。俺の人生にとっての幸福は、テニスの頂点だったんだ。テニスが全てだったんだ。俺の24時間は、テニスを基準に巡っていたんだ。だからテニスのできない体になってしまった今の俺は、不幸のどん底で、もう幸福になれることはないと思っていたんだ。
でも!でもね、真田!それは違ったんだよ!
幸福は自分が掴み取るものじゃなかったんだ!幸福はもっと自分の足元にたくさん散らばっているものだったんだよ。俺は自分の足元に、手の中に、たくさんの幸福の欠片が散らばっているのに気がつかなかっただけなんだ。見ようとしていなかっただけなんだ。」
幸村は笑った。彼の笑顔を見るのは久方ぶりだ。まるで吸い込まれるような輝かしい笑みだった。
「真田、君が好きだ。毎日欠かさず真田が俺の病室の扉を開く瞬間が幸福だ。俺の顔色を見て、少しでも具合が良さそうだと安堵を浮かべる真田の顔を見る瞬間が幸福だ。真田が、さも当然のような顔をしてこの来客用のパイプ椅子に腰を下ろす瞬間が幸福だ。こうして真田と向かい合って、俺の持論を真田に語るその一瞬一瞬が幸福だ。どんなに他愛無い一言でも真剣に耳を傾けてくれる真田を愛おしいと思う一瞬一瞬が幸福だ。」
幸村は一気にまくし立てた。真田が訪れたら言いたくて言いたくて、たまらなかった言の葉の群れ。
「幸福なんだ、俺は。だって真田がいるもの。俺の幸福は、真田が与えてくれたものばかりだったんだ。テニスができるとか、できないとか。病気だとか健康だとか、そんなことは関係がなかったんだ。俺は取るに足らない余計なものに、手足を引っ張られていたにすぎなかったんだ。大事なものはいつだって、目の前にある些細なものの群れだったんだ。目の前にありすぎて、見えていなかっただけなんだ。だから真田も俺を好きになってよ。そうすれば、俺達はもっと幸福になれると思うんだ。」
「幸村…!」
真田は気がつけば幸村をきつくきつく抱き締めていた。
脊髄反射のように体が勝手に強く反応していたのだ。
「真田、痛い…」
そう言って幸村は困ったように笑った。
「命令などせずとも俺は、もうずっと前からお前のものだった。」
華奢なお前の体をこうして抱いている瞬間が幸福だ。
お前のことを祈りながら、病室に足を運ぶ瞬間が幸福だ。
お前のために見舞いの品を選ぶ瞬間が幸福だ。
お前のために林檎を剥く瞬間が幸福だ。
お前から預かったテニス部を鍛える一瞬一瞬が幸福だ。
お前の背中を一心不乱に追いかけた一瞬一瞬が幸福だった。
お前と共に過ごした学校生活の一瞬一瞬が幸福だった。
お前と他愛のない話をした一瞬一瞬が幸福だった。
俺の幸福は全てお前がくれたものだった。
俺達はずっと前から幸福で、そしてきっとこれからも共に歩む限り、永遠に幸福だ。
それが
俺とお前の
幸福論
オキシドールの匂いの染み付いた白い檻の中に、閉じ込められた蝋人形のようだった。
虚ろな眼差しで、虚空に視線を泳がせ視点が定まっていなかったし、どんなに熱意を持って話しかけても、幸村は上の空だった。
しかし今日の幸村は全身から眩いほどのオーラを放っている。
顔の表情がくっきりしていて、瞳が大きい。
精気が漲っている。
「真田、俺わかったんだ!」
真田が扉を開いた瞬間に、幸村は叫ぶようにそう言った。
真田は目を見張った。
まるでその病室でいつものベッドに横たわっていた幸村は、病に蝕まれる前の彼そのものだったのだ。
過去に遡ってしまったのではないか、と一瞬真田が考えて込んでしまうほどだった。
「何が、わかったというのだ?」
真田は一呼吸おいて病室に入ると普段から愛用している折り畳みのパイプ椅子に腰を下ろした。
「幸福についてだ!」
ハキハキと幸村が言う。早く頭の中にある考えを、言葉にしたくて、吐き出したくて、ウズウズしているようだった。
「ほう。」
「幸福とはなんなのか、俺はわかったんだよ、真田!それは突然のことだった。激しい夕立のようにそれは突如俺の頭の中にいきなり降ってきたんだ!その瞬間に俺は全てわかってしまったんだ。俺の求める幸せとは何なのか。」
「ほう。」
懐かしさがこみあげる。こんな幸村の姿を見るのは久しぶりだ。それは病で倒れる前の彼の姿だった。
毎日コートに立っては、ああしてはどうだろう、こうしてはどうだろう、とテニスに明け暮れている時の眩い彼の輝いた表情だった。
幸村は自分で立てた命題を、様々な人間に問いかけながらも誰の答えにも依存しないのだった。
ありとあらゆる意見を受け入れつつも、自分が納得のゆくまで考え込むのだ。そしていつも突然の閃きで、解決してしまうのだった。
それは神が彼に与えた能力と言って過言ではないかもしれない。
「真田、俺を好きになれ。」
「なに?」
彼はいつも唐突だ。真田の目が点になる。
「俺は、昨日までどうして自分はこんなに不幸なんだろうって考えていたんだ。常人ならば掛からないような奇病にかかって、ベッドの上から動けなくなって。急速に世界が萎んでしまって。このまま死んでしまうかもしれない。ああ、俺はなんて可哀想なんだろうって。それまで俺はテニスでの成功ばかり考えていた。俺の人生にとっての幸福は、テニスの頂点だったんだ。テニスが全てだったんだ。俺の24時間は、テニスを基準に巡っていたんだ。だからテニスのできない体になってしまった今の俺は、不幸のどん底で、もう幸福になれることはないと思っていたんだ。
でも!でもね、真田!それは違ったんだよ!
幸福は自分が掴み取るものじゃなかったんだ!幸福はもっと自分の足元にたくさん散らばっているものだったんだよ。俺は自分の足元に、手の中に、たくさんの幸福の欠片が散らばっているのに気がつかなかっただけなんだ。見ようとしていなかっただけなんだ。」
幸村は笑った。彼の笑顔を見るのは久方ぶりだ。まるで吸い込まれるような輝かしい笑みだった。
「真田、君が好きだ。毎日欠かさず真田が俺の病室の扉を開く瞬間が幸福だ。俺の顔色を見て、少しでも具合が良さそうだと安堵を浮かべる真田の顔を見る瞬間が幸福だ。真田が、さも当然のような顔をしてこの来客用のパイプ椅子に腰を下ろす瞬間が幸福だ。こうして真田と向かい合って、俺の持論を真田に語るその一瞬一瞬が幸福だ。どんなに他愛無い一言でも真剣に耳を傾けてくれる真田を愛おしいと思う一瞬一瞬が幸福だ。」
幸村は一気にまくし立てた。真田が訪れたら言いたくて言いたくて、たまらなかった言の葉の群れ。
「幸福なんだ、俺は。だって真田がいるもの。俺の幸福は、真田が与えてくれたものばかりだったんだ。テニスができるとか、できないとか。病気だとか健康だとか、そんなことは関係がなかったんだ。俺は取るに足らない余計なものに、手足を引っ張られていたにすぎなかったんだ。大事なものはいつだって、目の前にある些細なものの群れだったんだ。目の前にありすぎて、見えていなかっただけなんだ。だから真田も俺を好きになってよ。そうすれば、俺達はもっと幸福になれると思うんだ。」
「幸村…!」
真田は気がつけば幸村をきつくきつく抱き締めていた。
脊髄反射のように体が勝手に強く反応していたのだ。
「真田、痛い…」
そう言って幸村は困ったように笑った。
「命令などせずとも俺は、もうずっと前からお前のものだった。」
華奢なお前の体をこうして抱いている瞬間が幸福だ。
お前のことを祈りながら、病室に足を運ぶ瞬間が幸福だ。
お前のために見舞いの品を選ぶ瞬間が幸福だ。
お前のために林檎を剥く瞬間が幸福だ。
お前から預かったテニス部を鍛える一瞬一瞬が幸福だ。
お前の背中を一心不乱に追いかけた一瞬一瞬が幸福だった。
お前と共に過ごした学校生活の一瞬一瞬が幸福だった。
お前と他愛のない話をした一瞬一瞬が幸福だった。
俺の幸福は全てお前がくれたものだった。
俺達はずっと前から幸福で、そしてきっとこれからも共に歩む限り、永遠に幸福だ。
それが
俺とお前の
幸福論
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