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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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シャッターチャンスは一度だけ。



眩しいフラッシュの光と、シャッター音に手塚は振り向いた。
カメラを構えた不二が、レンズ越しに手塚を見つめている。
「不二?」
「笑ってよ、手塚」
そう言って不二はもう一度、シャッターを押した。
「………。」
手塚は仏頂面のまま、眉を顰めた。


大会も無事終了し、引継ぎも平穏に終わり二人は部活を引退した。
時間の余裕が生まれた二人は、放課後に、週末に、できる限りデートを重ねている。
今日は日曜日。
少し都心に出て、水族館を回った。
今はその帰り道なのだが、帰宅するにはまだ明るいので、公園に立ち寄った二人だ。
夕焼けが綺麗だから、と不二は先ほどからしきりにシャッターをきっている。
しかし…。

(最近の不二は、写真ばかり撮っているな…。)

手塚は腕を組んで、夢中でカメラを構えている不二を眺めた。
不二の写真好きは今にはじまったことではないが、最近は度を越えている気がするのだ。
今までがテニスばかりで、なかなか自由に写真を撮る時間もとれなかっただろうから、わからないでもないのだが…。
「て~づかっ。はい、チーズ。」
またカシャリと不二は、手塚にむけてシャッターを押す。

(俺ばかり撮っている…と思うのはうぬぼれではあるまい…。)

「不二。」
「んー?」
手塚は不二に寄って行き、右手を掴んだ。
「どうしたの、手塚?」
ご機嫌な顔で、不二は手塚を見上げた。

「写真はもういいだろう。」
「んー…足りない。まだ足りないよ…。」
「このところ写真ばかり撮っているようだが、撮りすぎだ。」

不満げな顔で不二は俯いている。
不二はつねに笑っていてつかみどころがないが、逆に慣れてしまえば、彼ほどわかりやすい人間もいないと手塚は思った。
それはなにか不安そうな顔だった。


「だって…。」
腕を握ったまま不二の横顔を見つめていると、やがて不二はポツリと話し出した。

「だって、手塚。君はもうすぐ海外に行ってしまうじゃないか。簡単に会えなくなるだろ。
だから君の写真が、たくさん欲しいんだ。もし手塚が恋しくて、寂しくて、死にそうになった時、僕はたくさんの手塚の写真を胸に抱いて、自分を癒したいんだ。だから…」

手塚は中学を卒業したら、海外にテニス留学することになっている。
付き合っている二人にとって、その話題は今までタブーだった。
それでも時間は待ってくれない。
卒業式も差し迫ってきている。
二人は時間の都合がつくかぎり、時間を共有しあった。
二人の時間は今しかないのだ。

「不二…。」

手塚は優しく不二を抱き締めた。

「すまない。」
「謝らないで。僕は君の足枷にはなりたくない。」
「不二…。」

胸が焦げるような痛みを手塚は感じた。

不二を愛しく思う。
できることならこのまま留学先まで彼を連れ去ってしまいたいと思う。
離れたくない。
不二と離れたいなどと考えたことは、一度もない。
けれど、テニスへの思いも手塚は捨てることはできない。

「僕は平気だ。君と過ごした時間の記憶と、写真がある…。」

手塚は眼を細めて、強がる彼の細く色素の薄い髪に指を絡めた。

「それでも…俺と一緒にいる時は…レンズ越しではなく、不二のそのままの瞳を通して俺を見つめて欲しい。不二の顔を見ていたいんだ。だから…カメラで隠さないで欲しい。」
「手塚…。」
不二は眼を閉じて、手塚の腕の中に体重を預けた。
手塚は小さな真白い耳に、唇を寄せて囁く。

「不二、お前が謝るなと言っても、俺は謝らずにはいられない。すまない…。すまない…不二。お前だけを選べない俺を許してくれ。」
「…わかってるよ、手塚。僕はそんな君が好きなんだ。だから自分を責めないで。」
「不二。手紙を出す…メールもする、電話も、だ。だから寂しい時は我慢するな。写真の俺に頼るのではなく、現実の俺を頼って欲しい。苦しくなったら、構わずに電話して来い。朝でも昼でも夜中でも構わない。」
「手塚…。ありがとう。」
不二は優しく手塚の背を撫でる。

(不二は電話するまい…)
言葉をあげても、不二が時間を構わずに自分に電話をかけてくることはないだろう、と手塚は思った。
彼は人一倍プライドが高く、なにより恋人の負担となることを恐れているからだ。
それでも手塚は、不二に言葉を送らずにはいられなかった。

遠く離れた時、物理的に会えない距離に置かれた時、二人を繋げるものは約束だけだから。

「不二。俺はプロになる。しかし、一生テニスをして生きるわけではない。俺だって、ラケットをコートに置く日が、必ず来る。その時は…その時は…一緒になろう。一緒に暮らそう。永遠にお前の側に居る。都合のいい男だと、お前は思うかもしれない。しかし、そう願わずにはいられない。
これがお前を縛ることになっていることもわかっている。しかし、俺はお前を失いたくない。失いたくない…。不二、愛している…」

「ありがとう。ありがとう、手塚。その言葉だけで、僕は十分に嬉しいよ。僕は待ってる。待ってるよ。いつまでも君を待ってる。だから安心して君の愛するテニスで、世界一になってー…」

不二は軽く背伸びをして、手塚に口付けた。

「ね、手塚。もう君といる時にシャッターをきるのはやめるよ。僕は君の望みには、逆らえない体になってるんだ。だけど、だけどね。最後に…最後に一枚だけ君と写真が撮りたいな。君の姿ばかり撮っていたから、二人でうつってるのがないんだよ。ね、お願い。」

手塚は頷いた。
不二は笑っていた。
笑っていたけれどー…。

一筋の涙が彼の頬を伝っていったから…。

「ありがとう。愛してる、愛してるよ、手塚。」



シャッターチャンスは、一度だけ。














不二誕まであと6日☆
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