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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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気がつけば、僕は天井を見ていた。



僕の上には、手塚がいた。
正確に言えば、僕は自室のベットの上で、手塚に押し倒されていた。手塚は僕の上にのっかって、無言で僕のワイシャツのボタンをゆっくりと、ぎこちない手付きで外していった。
のしかかる手塚の体重が重かった。

手塚は今俗に言う「行為」を僕の中に求めている。
そしてやんわりと、その事実を受け入れて、無抵抗に見慣れた天井を見上げている僕がいる。






なぜこんなことになったのかと僕はぼんやりとした頭で、呆然と考えた。
手塚が僕の家に来るのは、なにも今日がはじめてではなかった。

それはとても些細なきっかけだった。

部活の休みだったある日、偶然昇降口で手塚と顔を合わせた。まったく知らない仲じゃないし、僕達は他愛のない会話を弾ませて、肩を並べて校門を後にしたのだ。
それは非の打ち所がないほど、すごく自然な流れだった。
それから帰路を共にする会話の中で、手塚が今読みたくて探している本が、僕の部屋の本棚にあることが判明したのだ。
だから僕は言った。
別段深い意味はなかったんだ。
「それじゃあ僕の家に寄っていけば?その本、貸すよ。」

それは僕の親切心から出た言葉だった。僕の家は、手塚の通学路の途中だったし、もし相手が手塚ではなかったとしても、例えば相手が大石でも英ニでも乾でも僕は同じ台詞を口にしたことだろう。

手塚は「そうだな、ありがとう。」とか相変わらずの、しかめっ面を浮かべて相槌を打っていた。

うん。ここまでは、全然自然な流れだ。おかしなところだって見つからない。そうだろ?


手塚を自室にあげて、はじめて僕はその日違和感を覚えた。
僕の部屋に、手塚がいる、というその現実が、僕にとってすごく不思議なものに思えたのだ。

僕の部屋に友達が遊びに来るなんてことは、小さな頃からよくあることだった。
現にテニス部の同級生で言えば、タカさんや英ニ、乾なんかがうちに遊びに来たことがある。
その時は、別段こんなに自分の部屋を他人に見られることに意識を向けたことはなかった。

手塚だから、だと僕は思った。

僕と手塚は、特別仲が良かったわけじゃない。チームメイトとしてもちろん彼とは毎日のように顔を合わせていたし、機会が巡ってくれば、ごく自然に会話を交わす。彼のテニスの腕は、僕も一目置いていたし、練習熱心なところも尊敬していたんだ。周囲は僕と手塚を良く比較してはライバル扱いしていたから、僕と手塚が実は仲が悪いんじゃないかなんて、影で噂をする人もいたけれど、僕は別に手塚が憎いとか、嫌いだとかそんなふうに考えたことはなかった。手塚が僕をどう思っているかなんて、僕には検討もつかないけれど、手塚と交わす日常会話からは、別段僕を嫌っているようには見えなかった。
ようするに、きっかけ、というものがなかったんだ。

例えば、英ニのように、お互いの家を行き来し合ったり、放課後や休日も互いに時間を共有し合って遊んだり、そんな「特別に」仲良しの友人だと気兼ねなく言い合える存在になるための、きっかけ、がなかった。

だから手塚が僕の部屋に遊びに来ている(といっても本を借りにきただけだけど)というこの状況が、僕にはものすごく不自然に感じられた。

僕は手塚を部屋に通すと、「とりあえず、適当に座ってて」と言って部屋を出た。
母さんが紅茶とお菓子を用意するからとりにいらっしゃいと言ってくれたから取りにいったんだ。

僕がお菓子とティーカップの乗ったトレーを運んで部屋に戻ると、手塚は僕の部屋の本棚に並ぶ書物を興味深そうに眺めていた。

「君が探している本はこれでしょ?」

僕はその時、手塚が目的の本を探しているものだとばかり思っていたから、その本を棚からとって彼に渡した。手塚は本を受け取った後も、しきりと僕の本棚を眺めていた。
それで僕は手塚の興味の対象が、本来目的だった本から僕の本棚に並ぶ書物に写ったことを知ったのだ。

「何か気になった本でもあったのかい?」

熱い紅茶を啜りながら僕は聞いた。

「ああ。知らない作家ばかりで、興味深い。」

手塚はいつもどおりの無愛想な顔で、僕の家の紅茶を啜った。
僕はこの時初めて、手塚が紅茶に砂糖を入れることを知った。
なんとなく、手塚の大人びた顔から、無糖派をイメージしていたから、これは僕にとって新鮮な真実だった。

それから手塚は僕の部屋で黙々と、本を読み始めた。
その本は僕が手塚に貸した本ではなくて、手塚が勝手に僕の部屋の本棚から抜き取った本だ。

手塚が岩のように動かなくなってしまったことに僕は少しだけ驚いた。

手塚はお茶を飲んだらすぐに帰るだろうと、なんとなく思っていた。借りた本をすぐに読みたいだろうし、手塚が誰か友人の部屋で、遊んだりくつろいだりする、という姿を僕は想像することができなかった。

手塚と遊ぶと言っても、手塚はすっかり本の世界の住人で、「うん」とも「すん」とも言わなくなってしまったから、僕は僕なりに好きにさせてもらうことにした。

ここは本来僕の部屋なわけだし、何をしても僕の自由だと思った。だから僕は勝手に音楽を聞いて、雑誌を見たり、それに飽きたら英ニに借りた携帯ゲームをしたりしながら適当に温い時間を過ごした。一人で部屋を過ごす時と同じように。

手塚は時折言葉を発した。「これは何の曲だ?」とか「それは何だ?」とか他愛の無いことだ。ソレに対して僕も今聞いてる曲が、僕の好きなケルト音楽であるとか、僕が今遊んでいるゲームが英二から借りたもので、今世間で流行っているものなんだとか、当たり障りのない返事をした。そうすると手塚は「そうか」と言ってまた書物の世界に戻っていくのだ。
僕もまたごくたまに気まぐれに「その本、面白い?」とか「今どのあたり読んでるの?」とか尋ねたりして、手塚もまた当たり障りのない返事をした。

僕達二人の間は会話を楽しむ時間よりも、沈黙の時が長かった。それはおしゃべり好きな英ニや乾と遊ぶ時と比べれば、違和感はあったけれども、僕はこの暖かい沈黙が嫌いではなかった。

やがて窓の外が暗くなると、自然と手塚は帰って行った。

僕の部屋には2つの使用済みのカップが残っていて、手塚がうちに来ていたことが現実であることを物語っていた。


それ以来、手塚は頻繁にうちに遊びにくるようになった。
別に僕がしつこく誘っているわけじゃないし、手塚が来たいと懇願してくるわけでもない。
なんとなく一緒に帰ることになって、なんとなく「寄っていく?」「ああ…」という流れが主だった。

移り行く日々の中で変わったことは、手塚が僕の所有するCDの曲名を全て空で言えるくらい詳しくなったことと、僕の部屋にある本をほとんど読みつくしたことだ。手塚はもはや同級生のどの誰よりも僕の部屋に詳しくて、僕が新しいCDや本を買ったりすると、それに一番早く気がついた。

僕の部屋にある書物を読みつくしても、手塚は僕の部屋に遊びに来た。

特に目的がなくとも、僕達中学生が暇を持て余すことはなかった。世の中は忙しなく動いていて、僕も手塚もそんな世界の一部だった。時には一緒に宿題したり勉強を教えてもらったりしたし、乾から借りたDVDで他校の試合を一緒に見て、意見しあうこともあったし、手塚が持ってきたCDを聞いたり、手塚オススメの映画を見たり、することは無限とあった。


そして今日もそんな些細で穏やかな日常の一部だった、はずなのだけれど。


今日は僕と手塚以外家の中には誰もいなかった。
姉さんは、仕事で遅くなるって言ってた。母さんは法事があるとかで遠くの親戚の家に出かけていて、やはり帰りは遅くなるらしかった。祐太は言わずもがな、寮生活で帰ってこないし、父さんは単身赴任中だ。

それで僕は手塚を誘った。

「今日は家族が皆出払っていて夕飯は一人だから、一緒に食べない?」って誘ったんだ。

夕飯は僕が作ることになっていたけれど、僕一人で食べるのも味気ないから手塚を誘ったんだ。

今考えるとなぜ手塚だったんだろうって思う。

別に誰でも良かったはずなんだ。英ニでも乾でもタカさんでも。

手塚はもちろん嫌だなんて言わなかった。



それから手塚は僕の家にやってきた。手塚はやってくるなり僕の部屋で、本を読み出した。まだ夕飯を作るにしては早い時間だったし、僕は新しく買ったCDを聞いてベッドでごろごろしていたらいつの間にか寝てしまった。


そして気がついた時、僕は天井を見ていたんだ。


でも今の僕は、とてつもなく落ち着いていて、穏やかな気持ちで、手塚を受け入れようとしている。

本当はずっと前から僕は、手塚の気持ちに気付いていた。

手塚の興味を引いたのは、「僕の部屋にある見知らぬ書物」ではなくて、「僕が好む書物」であり、「僕が好む音楽」であり、総じて言えば「僕自身」だったのだ。

きっと僕が手塚を家に誘ったことも些細なキッカケだったように、あの厳格な手塚が僕なんかに恋に落ちたキッカケも些細なことだったのではないだろうか。僕が手塚の気持ちに気がついたことも日常の些細なキッカケだった。

そして友達という関係が、終焉を迎えて、肉体と肉体が繋がりあう関係に落ちるのも、些細なキッカケにすぎないのだ。


僕は今日、この行為を終えたら、手塚のために腕を振るったディナーを食べながら手塚に聞こうと思う。

「君はどうして僕のことが好きになったの?」

手塚は眉を顰めながら、僕の料理を食べながら、その理由を答えるだろう。

彼は一度だって僕に「NO」と言ったことがないのだ。

そして手塚もまた僕に問うのだ。

「俺が好きか?」と。

一線を越えてから愛の真相を確かめ合うなんて、順番がズレているけれど、手塚らしいといえば手塚らしいと僕は思う。だって彼はいつだって、唐突なんだ。

そうして僕達ははじめて恋人と呼び合える仲になるんだ。


僕はもう彼の言葉に答える準備が出来ている。


君と過ごす穏やかな沈黙が、僕はたまらなく好きなんだ。









気がつけば、僕は天井を見ていた。


愛しい彼の腕の中で。








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