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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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午前九時
手塚国光は、青春台駅で立ち尽くしていた。 
今日は部活のない休日で、だいぶ前から不二と遠出する約束をしていたのだが…

(来ない…。)

待ち合わせ時刻の10分前には手塚はやってきたのだが…肝心の相手が待てど暮ら
せど一向にやってこない。

(遅すぎる…。)


何かあったのかもしれないと、携帯に連絡を入れてみても繋がらない。
午前10時を回ると、流石の手塚も我慢が出来なくなり、不二の実家に電話をいれ
た。
「はい。不二ですが。」
五回のコールの後に聞こえてきた声は、若い男の声ではあったが不二ではない。
「青春学園の手塚だが…。」「あれ?手塚さん?」
どうやら受話器の向こう側にいるのは、不二の弟裕太らしい。

「不二は…」
「兄貴ですか?あ!手塚さんもしかして今日、兄貴と何か約束してました?」
「ああ。こうして一時間待っているのだが、一向にやってこないので、何かあっ
たのかと…」
「あちゃ~…」

裕太の困ったような溜め息が伝わってくる。

「すいません、手塚さん。兄貴は寝てます。」
「………寝てる?」

呆然と手塚は繰り返した。今日の遠出を不二はとても楽しみにしているように見
えたのだが…。それは思い違いで、不二にとっては、すっぽかそうが、どうでも
良いけとだったのだろうか。

「本当すいません、手塚さん。俺が昨日帰るってこと、兄貴知らなかったみたい
で、兄貴すごい興奮しちゃって…明け方まで徹夜でゲームしてたんです。大事な
用があるから少し仮眠するって言ったまま…熟睡しちゃって。兄貴、一度寝ると
、起きないんですよ。低血圧で、寝起きも悪くて。」

「…………。」
「手塚さん、今どこにいるんですか?」
「青春台駅だ。」
「あ、それじゃあそのままうちにいらしてくれませんか?そんな距離じゃないで
すよね?それまでに兄貴起こしてみます。」
「……わかった。」

遅刻で待たされた上に、なぜ迎えに行かねばならないのか。


手塚が不二家についた時、不二は一向に目覚めていなかった。
裕太の謝罪とともに不二の部屋に通される。
裕太は「じきに起きると思いますんで…手塚さんもゆっくりして行ってください。あ、俺もう行かないと」
時計と睨めっこしながら裕太は行ってしまった。
なんでも友人と出かける約束があるらしい。

手塚は溜息をついて、ベッドを占領したまま小さな寝息を立てている相手を見下ろした。

(………あ。)

涎。
そして寝癖。

いつ見ても完璧な姿である彼の、こんな無防備な姿を見るのははじめてだ。

そっと不二の髪に触れる。
色素の薄い茶色い、柔らかい髪だ。手塚の髪とは手触りがまったく違う。
そっと撫でると、寝癖が治った。
以前不二が、「僕の髪は柔らかすぎて、癖がつきにくいんだ。」と言っていたことを思い出す。
あれは合宿所で、だったろうか…。
朝、寝癖と格闘していた乾や菊丸に不二はそう微笑んで話していた。
寝癖がついても、撫でれば簡単に元に戻るのだ。

「………間抜けな顔だな。」
幸せそうな緩んだ寝顔を見ていると、約束をすっぽかされた怒りもどこかに吹っ飛んでいってしまいそうだった。
こんな気の抜けた彼の表情を手塚は見たことがない。

不二はいつも笑顔の仮面を被っているが、つねに気を張り詰めているように見えた。
天才と呼ばれる自分の、周囲の希望を、壊さないように懸命に生きているように見える。

しかし不二の自室のベッドだけは、不二に何も期待しない。
彼が天才であろうが、非凡であろうが、凡庸であろうが、構わないのだ。
だからこそ、不二は心安らかに眠れるのであろう。

(愛おしい。)
と手塚は思う。
いつか自分にもこんな顔を見せて欲しいと思う。
天才として、完璧を演じる不二周助という姿ではなくて。
一人の不二周助という人間として、ありのままの姿を見せるようになって欲しい。
良いところも悪いところも全て。

不二周助、という男の、長所も短所も全てを受け入れる覚悟が手塚の中にはすでにできている。
人を愛することとは、そういうことだと思った。
人間は誰しも完璧では、ない。
不完全な部分を、弱点を、短所を、愛してこそ、『人を愛すること』と呼べるのではないか。
(それにはもっと時間が、必要だろう。)
不二は、人に弱みを見せることになれていない。
手塚の前でさへ、完璧な恋人を演じようと振舞う。
不二がありのままの姿を手塚に見せるには、もう少し時間が必要だろう。

手塚はもっと、彼の弱点が見たいと思った。
そしてもっと彼を愛したいと思った。

それには、こんな休日も悪くない。


不二の白く小さな額に唇を寄せると、長い睫がそっと揺れた。
そっと瞼が開く。

「てってづか…??!!」

視界に入れた人物を認識するや否や、不二は飛び起きた。

「おはよう。」
「お、おはよ……あ!」

不二が、しまったという顔をした。
ずっと前から交わしていた約束と、今の状況が頭の中でつながったのだろう。

(さてと…)

これからゆっくり不二の良い訳を聞きながら、手塚は今日一日愛しい彼とどんな一日を過ごそうかと考えながら、この低血圧な恋人を見つめた。
なにしろ練りに練った計画は全て水に流れてしまったのだから。

だけれども。

(こんな休日も悪くない。)



Good morning, my little lover.




















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