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関東大会決勝後、不二が立海に転校するという原作が捻じ曲がった設定になっています。
それでも構わないという方のみご覧下さい。
手塚。
今年の日本の夏は昨年にも増してずっと暑いね。
よく晴れた空を、見上げるたびに僕は君のいるあの場所へ想いを馳せるんだ。
この空はどこまでも、続いていて、ひょっとしたら手塚も窓の外から、或るいは、コートの上から、同じ空を眺めているのかもしれないってね。
僕にとって、15回目の夏。
昨年の灼熱と、今年の灼熱の違いなんて、正直僕にはよくわからない。
でも。
どうしても、昨年の夏と違うことがある。
君がいない。
去年、僕は君の隣にいた。
一昨年も。
その前の年も。
君のいない夏を、僕は今噛み締めて、生きている。
1.一抹の不安
真田弦一郎が、朝練を終えて教室に向かうと、教室の中は普段とは違う、ざわめきに満ちていた。
「どうやら他所のクラスに、時期はずれの転校生が来るらしいですね。」
そう声をかけて来たのは、同じクラスの柳生比呂士である。
「……たるんどる。」
真田は、一言そう吐き捨てるように呟いて、窓側の一番奥にある自分の席に荷物を下ろした。今朝の真田は、あまり機嫌が良くない。
そうと知ってか知らずか、立海大の紳士は真田との会話をこれ以上続けようとは思わず、そのまま口を噤み自分の席についた。
真田の機嫌の悪さは、朝練に幸村精市が来なかったことに起因している。
それも真田に対して、無断で、である。
難病にかかって、通院で練習が休みがちだったあの頃でさえ、幸村は部活を欠席する時は、真田に連絡を欠かさなかった。
(幸村…。何かあったのか…)
真田は自分の席で、じっと腕を組んで、考え込んだ。
刻々と時間が過ぎ去るのと同時に、真田の心も深く沈んでいく。
朝練も姿を一向に現さない幸村のことが心配で、身が入らなかった。
(幸村の教室を覗いてみるか…)
教室の時計は、朝のHR開始まで後10分の猶予を告げている。
「…いちろう。弦一郎!」
「…痛ッ!」
気がつくと、柳蓮二が腕を組んで真田の目の前に立っていた。手には部誌が握られている。どうやら部誌の角で、真田の頭を殴ったらしい。
「忘れ物だ。」
蓮二はそう言って、部誌を真田に押し付けた。
「あ…ああ?そ、そうか…そうだったな。す、すまない。」
部誌をつけるのは、本来部長である幸村の仕事であるが、その彼が休みなのだから、今日の部誌をつけるのは副部長たる真田の仕事であった。もっとも幸村は、部誌を面倒くさがって権力まかせに他人に押し付けることが多く、部誌を開けば、線の細い幸村の字よりも達筆な真田や柳の字がページの大部分を占めていた。
「まったく。しっかりしてくれ、弦一郎。そんなことでは、不二にレギュラーを奪われてしまうぞ?」
「む、そ、そうだな。しっかりせねばならんな。でないと不二に……不二?」
なぜここで不二の名前が出てくるのか真田は疑問に思った。
不二と聞いて、頭に浮かぶ名前は一つしかない。
天才、不二周助。
王者立海の関東16連覇を阻んだ、青学の手塚につづく、ナンバー2である。
「な、なぜここで、不二の名前が出てくるのだ?」
「……………。」
柳は一瞬キョトンとした顔を見せた。
「今日から青学の不二周助が、3-Cに転校してくることになっている。だから精市は今日朝錬を休んで、不二を迎えに行ったんだ。精市から聞いてないのか?」
「なっ!」
柳の知っていてさも当然という顔つきに真田は絶句した。
(聞いていない!お、俺は何も聞いていないのだ!)
「なっなぜ幸村が、わざわざ迎えに行く必要が、あるのだ?」
「なぜって…精市と同じクラスだからじゃないのか?不二は実家を出て、一人暮らしのようだし、道に迷わぬよう迎えに行ったのだろう。転校初日は心細いだろうが、精市とは何度か大会で顔も合わせているし、まったく知らない仲じゃない。顔なじみがクラスに一人いるだけでも、不二の緊張もだいぶ解けるだろう。」
「同じクラッ…!」
そういえば幸村も三年C組だった。
真田は三年間、一度も同じクラスになったことがないというのに!
「し、しかしだ、な…。わざわざ迎えに行かずとも良いでは…ないか…」
真田の心中を見越してか、柳は微笑を湛えて続けた。
「精市は、不二周助は我が王者立海の大事な戦力になると喜んでいたぞ?おそらくべったり張り付いて、テニス部に勧誘するつもりなのだろう。不二はテニスプレイヤーとして有名だが、彼の運動神経や能力を考えれば、他の運動部だって黙っていないだろうしな。」
「べったりだと?!べ、別に不二周助などいなくとも、我が立海大に死角はないぞ!」
「ふむ。だが我々が関東で、青学に敗れたのもまた一つの事実だ。そして不二周助が関東決勝で、我々から一勝を奪っているのもまた大きな事実。もし関東決勝で、不二が青学ではなく立海の選手だったなら…関東の結果も180度変わったと思うが?」
「だが、しかし…」
「フッ。弦一郎は、不二周助の入部をあまり良く思っていないようだな。」
「そ、そんなことは…。」
「おい、柳生」
柳が、真田の前の席で一限目の予習に励む、柳生に声をかける。
「お前も俺達の話は、耳に届いていただろう?不二周助の入部をどう考えている?」
「お恥ずかしながら…盗み聞きはよくないと思っておりましたが、何分この距離ですからね。嫌でも耳に入ってしまうものですから、お二人の話は聞いておりました。そうですね…私見を述べさせていただくならば、とても良いことだと思います。青学の不二周助とは、私も一度手合わせ願いたいと思っておりました。不二君が我が立海大テニス部に入部することで、士気もより向上するのではないでしょうか。ね、真田君」
「し、しかし…」
「なんだ、弦一郎は怖いのか?天才不二周助が。」
「なっ!そんなことはないぞっ!ひねりつぶしてくれるわっ!」
「その意気だ、弦一郎。むろん俺も負けるつもりはないぞ?」
その時、丁度朝のHRの始まる鐘が鳴り、柳は自分の教室へ帰って行った。
(天才、不二周す…け…)
真田の胸を締め付ける不安は、無論テニスに関することではない。
(幸村の隣は、俺だ)
今まで守り抜いてきた、この地位を、簡単に手放すつもりはない。
余所者なら、なおさらだ。
(……俺、だ、か、ら、な)
続
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