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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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ホームルームでいじめに関する作文を書くことになった。
いじめについてどう思うか、原稿用紙一枚に記すという単純な課題だ。

なぜそんなことになったのかと言えば、隣のクラスでいじめが発覚したとかで、何か知ってることがあればその事も記すようにと担任は言っていた。

隣のクラスのいじめなんて初耳だ。被害者も加害者も知らない。だから興味もわかない。

ふと思い出したのは三橋の顔だった。


三橋。三橋、三橋、三橋…。

いじめと聞いて思い浮かぶのは三橋のきょどった泣きっ面でしかない。


あの時…俺は三橋が好きだった…だけど率先して体を張って守ろうとはしなかった。

多勢に無勢で。数の力は強力だ。三橋の味方は俺しかいなかったのだから…。世界で唯一の味方だった俺だって……時には見て見ぬ振りをした。あまりに三橋の泣き顔が可愛くて、恋しくて、愛しくて。俺は三橋の気がつかない遠いところから、いつも三橋がいじめられる様を眺めていた。頃合を見計らって出て行って、優しく慰めてやった。三橋の心を鷲掴みにするにはそれだけで良かった。簡単だった。
今考えれば、俺も加害者だったのかもしれない。

たまに優しい言葉を…かけてやるだけの……偽善者だったのかもしれない…。体を張って三橋を守ろうとはしなかったのだから。


それでも……。


俺は三橋が好きだった…。
三橋に好かれる唯一の人間になりたかった…。

「叶、作文書けたんか?」
いつのまにか目の前に織田がいて、手元を覗きこんでいた。

「できたよ。これ、出しといて。」

立ち上がり織田に原稿用紙を押し付けて帰り支度をする。
もうすぐ5限終了のチャイムがなる。
俺はもうすぐ投げられる。あいつの影ではなく、エースとして。

「なんやこれ」

織田は眉をひそめて押しつけられた紙に見入った。

「さよなら、愛しています。…………これだけ?しかも意味わからんし。先生に怒られるで?」

「いいんだよ。加害者から被害者への愛のメッセージなんだからな。俺的にはテーマに乗っ取ってあんだよ。」


頭に沢山ハテナをのせた織田を置き去りにして、教室を出る。

と同時に5限終了のチャイムが鳴り響いた。





さよなら。愛していたよ、廉。お前はいなくなってしまったけれど、これからも愛しているよ。

助けてやれなくてごめん。
お前の苦痛に歪む顔が……たまらなく好きだったんだ。お前のその顔を見るためなら俺はいくらでも偽善者になれた。

本当の加害者は俺だ、な。
















さよなら、愛しています。
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それはそれは唐突に阿部は言った。

「三橋ってさぁ…本当に俺が好きなの?」
「す、好きだっよ!」
「………本当か?」
「ほっ本当だよ!」
「……無理して言ってんじゃねぇ?別に俺に合わせなくてもいいんだからな。」
「むっ無理なんかっ…してないっ!」
「………正直に好きじゃないって言ってみな。お前のキャッチャーやめたりしねぇから。」
「す、好きだっ……よっ!」
「…………本当か?」
「あっ阿部君…どうして俺の…言ってる…ことっ信じてくれなっいのっ…」
「……なんでかな…。自分でもいまいちよくわかんねーけど、お前が誰も嫌わねぇからさ…俺のことスキって言う意味も取り違えてんじゃねぇかと思って」
「そっそんなこと…ないっよ!」
「……じゃあどう言う意味で好きなのか、言ってみな」
「ああああ阿部君が…好きでっす…」
「言葉だけじゃよくわかんねぇな…」
「………ど…どうした…ら…いいの…」
「それぐらい自分で考えな。俺のことが好きだって証拠見せてよ。」
「………………っ」
「……思い付かないってことは、だ。俺のこと好きだって証拠がないってことだよな?」
「おお俺は…阿部君が好きだっから!えぃっ!ここ触ってみ…てっ!」
「うぉっ!ちょ三橋…!」
「おっ俺の胸ドキドキして…る…でしょ?ああああ阿部君がすっ好きだっからだよ!」
「三橋…」
「ああ阿部君の…胸も…ドキドキして…る…ね。阿部君も…俺のこと…好き…なんだ、ね。」
「そんなの…当たり前だろ。バーカ」




論より証拠。


「お前っふざけんなよ…!」
阿部隆也は思わず怒鳴った。職場だったので驚いた同僚が一斉に自分を振り返る。凍り付いた職場の雰囲気をフォローする余裕すら生まれず、阿部は怒りの元凶である先程読み終えた、思わず握り締めてグシャグシャになってしまった一通の手紙を綺麗に引き伸ばした。

ヘタクソな懐かしい字に阿部は思わず目を細めた。

愛しい相手がつづった字。あの時よりいくぶんうまくなったような気がしないでもない。筆跡が薄くて角が丸い。小さな字だった。まるで自分に自信が持てないような字…。

きっとあいつはちっとも変わっちゃいないんだろうな。

阿部は懐かしさから目を細めて小さく息を吐いた。


あれから10年。
西浦を卒業してから…つまり三橋と別れてから10年がたつ。
別々の大学に進んだとはいえ、会おうと思えばいくらでも会える距離だった。なのに一度も会わなかった。それは三橋が…

(三橋が俺を拒んだから)

正直会いたかった。毎日会いに行くつもりだった。でもそれをしなかったのは…できなかったのは卒業式のあの日、やっとの想いで告げた告白を三橋が拒んだからだ。
多少なりとも自信があっただけにショックはでかかった。3年間三橋のそばにいた。口約束はなかったもののお互いの気持ちは同じだとばかり思っていたから…。

それが…今更になって…。

阿部はイライラと綺麗な黒髪をかき上げると

「おい、水谷」
「はぃ?」

前の席でパソコンと睨めっこしていた水谷が顔をあげた。
水谷文貴。高校時代から腐れ縁の会社の同僚である。

「お前、この間西浦の同窓会出たよな。忙しい時期だっつーのに有休とりやがって、俺にそのぶん皺寄せがきたんだよな。」
「なんだよ阿部~。この前悪かったってちゃんと謝ったじゃんか。まだ根に持ってんのかよ」
「三橋、にあったか?」
「あったよ~。あいつ見た目とか全然変わってないのな。マジ笑えた。」
それはお前もだ、クソレフト。口からこぼれそうになった暴言を阿部は堪えて飲み込む。

「……俺の話したよな?」
「ああしたかも。阿部と同じ会社なんだって…」
「…他にもなんか言っただろ?」
「あーそうそう。阿部が結婚するって話を…」

「元凶はやっぱり貴様かぁああ!!!こんのっクソレフトぉおお!」
「ヒー……!!」
机に乗り出して水谷の胸倉を掴む。ガタンと音がして、湯呑みが倒れ、零れたお茶が大事な書類を浸食していく。

職場の同僚達は驚愕の目でただただ唖然と二人の様子を眺めていた。
「結婚すんのは俺じゃねぇ!弟だっつったろうが!」
「おお弟だって言ったよ!綺麗な婚約者がいて近々結婚するらしいって!」
「三橋は俺が結婚するもんだと勘違いしちまってるじゃねーか!」
「そっそんなの三橋の聞き間違いだろっ」
「貴様のせいだろうがぁああ!」
「ヒー…!くっ苦しいっ!落ち着けって阿部…!おっ落ちる落ちるっ!」


「お前らなにやってんだ!!」

飛び込んで来たのは花井である。花井梓。同じく腐れ縁の同期であるが、花井は隣の部署だった。阿部の怒鳴り声と水谷の悲鳴を聞いて飛んできたらしい。


「花井~!阿部がいじめるよぉ~」


水谷が花井にすがりつく。
「えぇい!いい歳して纏りつくな!お前ら職場でなにやってんだよ!」


「……………。」

阿部は目を伏せて無言でイスに腰を降ろした。
机から零れたお茶が滴ってスーツを汚したが、そんなことはどうでも良かった。


水谷にはああして怒鳴ったものの…結果的には良かったのかもしれない。とっくの昔にあきらめていた三橋が、どういう形であれコンタクトをとってきたのである。
三橋にフラれてから半端やけくそになって自分から三橋との連絡を絶った。押して駄目なら引いてやれと思ったからだ。三橋はあの時自分を拒んだけれど、三橋が自分から離れて生きていけるはずがないと思っていた。きっといずれ三橋は泣きながら自分を求めてくるに違いない…そう思っていた…


無残にも時は流れあれから10年がたった。20代も後半になって同僚の中でも既婚者の数が目立つようになり独り身の肩身も狭くなった。
三橋にとって自分は必要な人間ではなかったのだとハッキリ悟るのに10年は十分過ぎる時間だった…。

忘れようとして何度となく違う女と付き合ってみても頭の片隅ではいつも三橋のことを考えていた。

一日足りとも三橋のことを忘れたことはない。


(まだ…間に合うんだろうか)

10年ぶりの三橋からの手紙。
一方的な告白と、一方的な別れを突然言い渡された。


(まだ…間に合う…か?)


ドクンと胸が高鳴る。三橋に会いたかった。三橋に会いたくて会いたくてしかたがなかった。会社帰りに連れさって自分の部屋に監禁して2度と外に出さないようにしようと考えたこともある。実行に移れなかったのは、もう一度三橋に拒絶されたら…二度と立ち上がれないような気がして怖かったからだ。

自分は10年待った。気持ちは色褪せることを知らず、想いは募るばかりだった…。何度も諦めようとして……駄目だった。



三橋が好きだったと…伝えてくれた。ああ、やばい。三橋が好きだ。もう我慢できないよ三橋…俺は堪えてたのに…お前が悪いんだからな…こんな手紙寄越すから…。塞き止めてたものが溢れちまう…。


海外がなんだ。俺が欲しかったのはお前の気持ちだけだ。





三橋をさらってやろう。





密かな決意を胸に秘めて阿部は立ち上がった。








三橋の家の紅茶はひと味違う。俺みたいな庶民の慣れ親しんだ紅茶なんつーもんは、100%ティーパックのやつだ。使い捨てのな。もしくはその辺の自販機で売ってるペットボトルないし紙パック。あややのCMなんつえば、おなじみだろ?

ところが、だ。
三橋んちに行ってみて驚いたことがある。知ってるか?三橋んちの紅茶ってちゃんと急須で入れるんだぜ?急須っつーと日本茶みてぇだな。あれだ…なんつえば良い?ポット…か?
まぁそんなことはどうでも良い。
とにかく三橋んちの紅茶は旨いんだ。味も濃厚だし、香りも良い。最高だ。きっと高い茶葉を使ってんだな。
更にお茶を注ぐ陶器なんて本当高そうな雰囲気だぜ。
割ったら大変だなとか考えると変な緊張しちまう。

つまり三橋んちって金持ちなんだ、ようするに。
じぃちゃんが学校の経営者だもんな。ま、貧乏なわけねぇよな。でも三橋には自分が他人と比べて生活水準が高いなんて考えたこともないらしい。金持ちだっつー自覚がねぇんだ。小遣いなんか俺の倍くらい貰ってるくせにな。




三橋は今日も叔母さんが入れてくれた紅茶に砂糖とミルクを大量に投下した。
俺には自爆テロにしか見えないね。だってよその砂糖の量…飽和量の限界を超えてねぇか?だいたいそんだけミルク入れちまったら紅茶の香りもクソもねぇよな。もったいねー…。

俺は胃がムカムカしそうな紅茶を啜る三橋を眺めながら自分にあてがわれたカップをすする。もちろん俺はストレートで頂く。ああ、旨い。香りも最高だ。


「ね、」

不意をついたつもりか三橋は俺にキスをした。
別に驚くことじゃない。消極的すぎる三橋の小心を克服すべく、俺に会った日は必ず一回自分からキスするように命令している。じゃねぇと一方的に俺ばっかになっちまうからな。おいそこ、不憫だとか言ってんじゃねー。


問題は三橋のタイミング。

最悪なまでに甘い。なんつーもん飲んでんだコイツは。

「あ、阿部君…良い匂いが…するね」
と照れながらもはやミルクと砂糖でしかない紅茶を啜る三橋。

おい、三橋。その良い匂いってやつな俺じゃねぇんだよ。お前の分のその良い香りは、お前が殺しちまったんだよ。



ま、可愛いからなんでもいいか。
阿部君へ




急な便りで阿部君も本当にびっくりしたと思います。ごめんなさい。どうしても阿部君に伝えたいことがあって、手紙を書きました。俺は電話もメールも苦手だから…だから手紙にしようと思いました。何度も何度も書き直して、もう何枚目の紙なのか…わからなくなっちゃって…手紙も俺にとっては苦手なことの一つだったのだとついさっき気がつきました。俺の字はヘタクソだし読みずらい部分も多いかと思います。でもお願いだから最後まで阿部君に読んで欲しいです。迷惑かけて本当に本当にごめんなさい。



この間西浦の同窓会がありました。阿部君は仕事で来られないと聞きました。久しぶりに阿部君に会えると思っていたので少し残念でした。その会場で、阿部君がもうすぐ結婚するのだということを聞きました。綺麗な婚約者の人がいて、もう日取りも決っているのだと聞きました。

それを聞いた時、少しだけ涙が出ました。お酒が入っていたせいかもしれないけど、俺は久しぶりに少しだけ泣きました。


俺が泣くなんておかしいよね。阿部君もきっとそう思ったと思います。
だって卒業式のあの日、阿部君が俺に好きだから付き合って欲しいと言ってくれたあの時…うんと縦に首を振らなかったのは俺自身だから…。

今さらこんなことを言うのはおかしいかもしれない。でも胸が苦しくてたまらないから聞いて欲しい。

俺は阿部君が好きでした。高校3年間ずっと…好きだった。あの時素直にうんと言えなかったのは、怖かったからです。これ以上阿部君を好きになってしまうのが怖かった。これ以上阿部君を好きになってしまったら…阿部君がいなくなった時生きていけなくなってしまうような気がして、怖くて怖くてたまらなかった。これ以上阿部君のそばにいたら俺は永遠に高校生の心のまま、2度と大人になれないような気がしたのです。


思えば俺が自分の意志で首を振ったのはあの時が最初で最後でした。



本当に今更の話です。

ただ俺が阿部君が嫌いだからあの時断ったんじゃないと言うことをきちんと伝えておきたかったのです。


突然ですが、この手紙が阿部君の手元に届いた頃俺は日本にはいないと思います。
仕事で海外に行くことになりました。おそらくもう日本に帰ってくることはないと思います。


阿部君、結婚おめでとう。どうか幸せになってください。心の底から祈っています。

阿部君に出会えて本当に良かった。俺の人生の中で阿部君と過ごした高校3年間は宝石のような時間でした。今でもあの頃の…夏の夢を見ます。
俺はマウンドの上で白球を握り締めています。阿部君が俺にサインをくれる。

大きく振りかぶって俺は阿部君のサイン通りの球を投げる。

エースのボールは打たれない。


阿部君のミットに届く…。








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