ちょっとした短い小説の掃き溜め。
CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。
(※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず)
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「お前っふざけんなよ…!」
阿部隆也は思わず怒鳴った。職場だったので驚いた同僚が一斉に自分を振り返る。凍り付いた職場の雰囲気をフォローする余裕すら生まれず、阿部は怒りの元凶である先程読み終えた、思わず握り締めてグシャグシャになってしまった一通の手紙を綺麗に引き伸ばした。
ヘタクソな懐かしい字に阿部は思わず目を細めた。
愛しい相手がつづった字。あの時よりいくぶんうまくなったような気がしないでもない。筆跡が薄くて角が丸い。小さな字だった。まるで自分に自信が持てないような字…。
きっとあいつはちっとも変わっちゃいないんだろうな。
阿部は懐かしさから目を細めて小さく息を吐いた。
あれから10年。
西浦を卒業してから…つまり三橋と別れてから10年がたつ。
別々の大学に進んだとはいえ、会おうと思えばいくらでも会える距離だった。なのに一度も会わなかった。それは三橋が…
(三橋が俺を拒んだから)
正直会いたかった。毎日会いに行くつもりだった。でもそれをしなかったのは…できなかったのは卒業式のあの日、やっとの想いで告げた告白を三橋が拒んだからだ。
多少なりとも自信があっただけにショックはでかかった。3年間三橋のそばにいた。口約束はなかったもののお互いの気持ちは同じだとばかり思っていたから…。
それが…今更になって…。
阿部はイライラと綺麗な黒髪をかき上げると
「おい、水谷」
「はぃ?」
前の席でパソコンと睨めっこしていた水谷が顔をあげた。
水谷文貴。高校時代から腐れ縁の会社の同僚である。
「お前、この間西浦の同窓会出たよな。忙しい時期だっつーのに有休とりやがって、俺にそのぶん皺寄せがきたんだよな。」
「なんだよ阿部~。この前悪かったってちゃんと謝ったじゃんか。まだ根に持ってんのかよ」
「三橋、にあったか?」
「あったよ~。あいつ見た目とか全然変わってないのな。マジ笑えた。」
それはお前もだ、クソレフト。口からこぼれそうになった暴言を阿部は堪えて飲み込む。
「……俺の話したよな?」
「ああしたかも。阿部と同じ会社なんだって…」
「…他にもなんか言っただろ?」
「あーそうそう。阿部が結婚するって話を…」
「元凶はやっぱり貴様かぁああ!!!こんのっクソレフトぉおお!」
「ヒー……!!」
机に乗り出して水谷の胸倉を掴む。ガタンと音がして、湯呑みが倒れ、零れたお茶が大事な書類を浸食していく。
職場の同僚達は驚愕の目でただただ唖然と二人の様子を眺めていた。
「結婚すんのは俺じゃねぇ!弟だっつったろうが!」
「おお弟だって言ったよ!綺麗な婚約者がいて近々結婚するらしいって!」
「三橋は俺が結婚するもんだと勘違いしちまってるじゃねーか!」
「そっそんなの三橋の聞き間違いだろっ」
「貴様のせいだろうがぁああ!」
「ヒー…!くっ苦しいっ!落ち着けって阿部…!おっ落ちる落ちるっ!」
「お前らなにやってんだ!!」
飛び込んで来たのは花井である。花井梓。同じく腐れ縁の同期であるが、花井は隣の部署だった。阿部の怒鳴り声と水谷の悲鳴を聞いて飛んできたらしい。
「花井~!阿部がいじめるよぉ~」
水谷が花井にすがりつく。
「えぇい!いい歳して纏りつくな!お前ら職場でなにやってんだよ!」
「……………。」
阿部は目を伏せて無言でイスに腰を降ろした。
机から零れたお茶が滴ってスーツを汚したが、そんなことはどうでも良かった。
水谷にはああして怒鳴ったものの…結果的には良かったのかもしれない。とっくの昔にあきらめていた三橋が、どういう形であれコンタクトをとってきたのである。
三橋にフラれてから半端やけくそになって自分から三橋との連絡を絶った。押して駄目なら引いてやれと思ったからだ。三橋はあの時自分を拒んだけれど、三橋が自分から離れて生きていけるはずがないと思っていた。きっといずれ三橋は泣きながら自分を求めてくるに違いない…そう思っていた…
無残にも時は流れあれから10年がたった。20代も後半になって同僚の中でも既婚者の数が目立つようになり独り身の肩身も狭くなった。
三橋にとって自分は必要な人間ではなかったのだとハッキリ悟るのに10年は十分過ぎる時間だった…。
忘れようとして何度となく違う女と付き合ってみても頭の片隅ではいつも三橋のことを考えていた。
一日足りとも三橋のことを忘れたことはない。
(まだ…間に合うんだろうか)
10年ぶりの三橋からの手紙。
一方的な告白と、一方的な別れを突然言い渡された。
(まだ…間に合う…か?)
ドクンと胸が高鳴る。三橋に会いたかった。三橋に会いたくて会いたくてしかたがなかった。会社帰りに連れさって自分の部屋に監禁して2度と外に出さないようにしようと考えたこともある。実行に移れなかったのは、もう一度三橋に拒絶されたら…二度と立ち上がれないような気がして怖かったからだ。
自分は10年待った。気持ちは色褪せることを知らず、想いは募るばかりだった…。何度も諦めようとして……駄目だった。
三橋が好きだったと…伝えてくれた。ああ、やばい。三橋が好きだ。もう我慢できないよ三橋…俺は堪えてたのに…お前が悪いんだからな…こんな手紙寄越すから…。塞き止めてたものが溢れちまう…。
海外がなんだ。俺が欲しかったのはお前の気持ちだけだ。
三橋をさらってやろう。
密かな決意を胸に秘めて阿部は立ち上がった。
続
阿部隆也は思わず怒鳴った。職場だったので驚いた同僚が一斉に自分を振り返る。凍り付いた職場の雰囲気をフォローする余裕すら生まれず、阿部は怒りの元凶である先程読み終えた、思わず握り締めてグシャグシャになってしまった一通の手紙を綺麗に引き伸ばした。
ヘタクソな懐かしい字に阿部は思わず目を細めた。
愛しい相手がつづった字。あの時よりいくぶんうまくなったような気がしないでもない。筆跡が薄くて角が丸い。小さな字だった。まるで自分に自信が持てないような字…。
きっとあいつはちっとも変わっちゃいないんだろうな。
阿部は懐かしさから目を細めて小さく息を吐いた。
あれから10年。
西浦を卒業してから…つまり三橋と別れてから10年がたつ。
別々の大学に進んだとはいえ、会おうと思えばいくらでも会える距離だった。なのに一度も会わなかった。それは三橋が…
(三橋が俺を拒んだから)
正直会いたかった。毎日会いに行くつもりだった。でもそれをしなかったのは…できなかったのは卒業式のあの日、やっとの想いで告げた告白を三橋が拒んだからだ。
多少なりとも自信があっただけにショックはでかかった。3年間三橋のそばにいた。口約束はなかったもののお互いの気持ちは同じだとばかり思っていたから…。
それが…今更になって…。
阿部はイライラと綺麗な黒髪をかき上げると
「おい、水谷」
「はぃ?」
前の席でパソコンと睨めっこしていた水谷が顔をあげた。
水谷文貴。高校時代から腐れ縁の会社の同僚である。
「お前、この間西浦の同窓会出たよな。忙しい時期だっつーのに有休とりやがって、俺にそのぶん皺寄せがきたんだよな。」
「なんだよ阿部~。この前悪かったってちゃんと謝ったじゃんか。まだ根に持ってんのかよ」
「三橋、にあったか?」
「あったよ~。あいつ見た目とか全然変わってないのな。マジ笑えた。」
それはお前もだ、クソレフト。口からこぼれそうになった暴言を阿部は堪えて飲み込む。
「……俺の話したよな?」
「ああしたかも。阿部と同じ会社なんだって…」
「…他にもなんか言っただろ?」
「あーそうそう。阿部が結婚するって話を…」
「元凶はやっぱり貴様かぁああ!!!こんのっクソレフトぉおお!」
「ヒー……!!」
机に乗り出して水谷の胸倉を掴む。ガタンと音がして、湯呑みが倒れ、零れたお茶が大事な書類を浸食していく。
職場の同僚達は驚愕の目でただただ唖然と二人の様子を眺めていた。
「結婚すんのは俺じゃねぇ!弟だっつったろうが!」
「おお弟だって言ったよ!綺麗な婚約者がいて近々結婚するらしいって!」
「三橋は俺が結婚するもんだと勘違いしちまってるじゃねーか!」
「そっそんなの三橋の聞き間違いだろっ」
「貴様のせいだろうがぁああ!」
「ヒー…!くっ苦しいっ!落ち着けって阿部…!おっ落ちる落ちるっ!」
「お前らなにやってんだ!!」
飛び込んで来たのは花井である。花井梓。同じく腐れ縁の同期であるが、花井は隣の部署だった。阿部の怒鳴り声と水谷の悲鳴を聞いて飛んできたらしい。
「花井~!阿部がいじめるよぉ~」
水谷が花井にすがりつく。
「えぇい!いい歳して纏りつくな!お前ら職場でなにやってんだよ!」
「……………。」
阿部は目を伏せて無言でイスに腰を降ろした。
机から零れたお茶が滴ってスーツを汚したが、そんなことはどうでも良かった。
水谷にはああして怒鳴ったものの…結果的には良かったのかもしれない。とっくの昔にあきらめていた三橋が、どういう形であれコンタクトをとってきたのである。
三橋にフラれてから半端やけくそになって自分から三橋との連絡を絶った。押して駄目なら引いてやれと思ったからだ。三橋はあの時自分を拒んだけれど、三橋が自分から離れて生きていけるはずがないと思っていた。きっといずれ三橋は泣きながら自分を求めてくるに違いない…そう思っていた…
無残にも時は流れあれから10年がたった。20代も後半になって同僚の中でも既婚者の数が目立つようになり独り身の肩身も狭くなった。
三橋にとって自分は必要な人間ではなかったのだとハッキリ悟るのに10年は十分過ぎる時間だった…。
忘れようとして何度となく違う女と付き合ってみても頭の片隅ではいつも三橋のことを考えていた。
一日足りとも三橋のことを忘れたことはない。
(まだ…間に合うんだろうか)
10年ぶりの三橋からの手紙。
一方的な告白と、一方的な別れを突然言い渡された。
(まだ…間に合う…か?)
ドクンと胸が高鳴る。三橋に会いたかった。三橋に会いたくて会いたくてしかたがなかった。会社帰りに連れさって自分の部屋に監禁して2度と外に出さないようにしようと考えたこともある。実行に移れなかったのは、もう一度三橋に拒絶されたら…二度と立ち上がれないような気がして怖かったからだ。
自分は10年待った。気持ちは色褪せることを知らず、想いは募るばかりだった…。何度も諦めようとして……駄目だった。
三橋が好きだったと…伝えてくれた。ああ、やばい。三橋が好きだ。もう我慢できないよ三橋…俺は堪えてたのに…お前が悪いんだからな…こんな手紙寄越すから…。塞き止めてたものが溢れちまう…。
海外がなんだ。俺が欲しかったのはお前の気持ちだけだ。
三橋をさらってやろう。
密かな決意を胸に秘めて阿部は立ち上がった。
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