ちょっとした短い小説の掃き溜め。
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(※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず)
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クラスメイトにもチームメイトにもそれぞれ深い愛情の元世話を焼いてくれる母親がいる。が、しかし栄口勇人にはその母がいない。
栄口家では母が亡くなってから家事は兄弟で分担するようになった。身の回りのことは大概自分自身でやらねばならない。
そう言った状況下で育てば、本人の意志に関わらず、同学年の仲間より自然と優れてしまう能力ができる。
主に料理、裁縫、洗濯、掃除。
高校に入る頃までには家事全般は器用に卒なくこなすことができるようになっていた。
だからといってそんな望んで身に着けたわけではない能力を栄口は他人に誇れるとは思わなかった。むしろその能力は栄口にとって有無を言わさずに自分と他人の境界線を感じさせる暗いものであった。
調理実習の時間は苦痛だ。
手際良く包丁を振るっていれば皆が必ずこう言った。
「栄口、すげぇな。」
「慣れてんなぁ。さすが栄口。毎日家事してんの?」
「栄口んちはお母さんいないんだもんな。偉いよなぁ。俺には無理」
「本当可哀相だよね」
可哀相とはなんだろう。母はいないけれど、家族とも仲が良いし自分を不幸だと思ったことは一度もない。
それでもその能力を振るうことで、周りは遠回しに自分よりも栄口が不幸なのだと言う。自分が可哀相な人間なのだと識別される家庭科の授業が、栄口は嫌いだった。
「うぉ痛ッ…」
高校に入学して間も無く西浦ナインは合宿を迎えた。合宿では食事も毎回自分達で用意しなければならない。夕飯の準備中、ジャガイモの皮をむいていた水谷は軽く指を切ってしまった。赤い血が皮膚からにじみ出す。水谷は眉をひそめて指を咥えた。
「お前気をつけろよ。手怪我したら野球できないだろ。ただでさえ人数少いんだからさ」
栄口は隣で玉葱の皮をむいていた。合宿中はなるべく包丁に触れないですむ仕事を選んでいた。
「ふぁい…文貴ファイト」
もう一度ジャガイモの皮むきに挑戦しようとする相手の手付きのあやうさに栄口はとうとう我慢ができなくなった。
「貸してみ。交換。」
水谷に玉葱を押し付けて、奪うように包丁とジャガイモを手にとった。
スラスラと綺麗な手付きで皮を向き始める。その様子を水谷は目を丸めて凝視していた。
「すっげぇ…」
「うち母親いないから。慣れてるんだこういうの。」
栄口は覚悟を決めて、本当はいつまでも言いたくなかった台詞を吐いた。
栄口って可哀相。
もう慣れっこだ。覚悟はできてる。
水谷は栄口の手元をいつまでも眺めていた。
吐息を漏らして言う。
「本当すっげぇ…栄口器用だなぁ。毎日やったってこうはうまくなんないって。うちのオカン栄口より絶対手つき悪いよ。」
「…………へ?」
思いもよらない答に栄口はぽかんと口を開いた。
「オカンがいるとかいないとかじゃなくて、これは栄口の生まれ持った才能だって!栄口将来料理人になるってのはどう?板前もいいけどシェフもいいよね…きっと大繁盛だよ。俺絶対栄口の店毎日通う。ってか俺、栄口の店に就職する。店の名前は…そうだなぁ」
大まじめでそんなことを言う水谷に、思わず栄口は噴き出した。
「ちょ!笑うなよ!真剣に言ったのに!」
「あはははははは!うざいよ、水谷!」
「ちょ!栄口ひどいっ!」
……可哀相って言われなかった。自分の生まれ持った才能だなんて言われたのははじめてで。嬉しくて照れくさい。
栄口は自分の能力が少しだけ誇らしくなった。
将来水谷と二人で料理店を経営するのもいいな、と栄口は頭の片隅で思ったのだった。
栄口家では母が亡くなってから家事は兄弟で分担するようになった。身の回りのことは大概自分自身でやらねばならない。
そう言った状況下で育てば、本人の意志に関わらず、同学年の仲間より自然と優れてしまう能力ができる。
主に料理、裁縫、洗濯、掃除。
高校に入る頃までには家事全般は器用に卒なくこなすことができるようになっていた。
だからといってそんな望んで身に着けたわけではない能力を栄口は他人に誇れるとは思わなかった。むしろその能力は栄口にとって有無を言わさずに自分と他人の境界線を感じさせる暗いものであった。
調理実習の時間は苦痛だ。
手際良く包丁を振るっていれば皆が必ずこう言った。
「栄口、すげぇな。」
「慣れてんなぁ。さすが栄口。毎日家事してんの?」
「栄口んちはお母さんいないんだもんな。偉いよなぁ。俺には無理」
「本当可哀相だよね」
可哀相とはなんだろう。母はいないけれど、家族とも仲が良いし自分を不幸だと思ったことは一度もない。
それでもその能力を振るうことで、周りは遠回しに自分よりも栄口が不幸なのだと言う。自分が可哀相な人間なのだと識別される家庭科の授業が、栄口は嫌いだった。
「うぉ痛ッ…」
高校に入学して間も無く西浦ナインは合宿を迎えた。合宿では食事も毎回自分達で用意しなければならない。夕飯の準備中、ジャガイモの皮をむいていた水谷は軽く指を切ってしまった。赤い血が皮膚からにじみ出す。水谷は眉をひそめて指を咥えた。
「お前気をつけろよ。手怪我したら野球できないだろ。ただでさえ人数少いんだからさ」
栄口は隣で玉葱の皮をむいていた。合宿中はなるべく包丁に触れないですむ仕事を選んでいた。
「ふぁい…文貴ファイト」
もう一度ジャガイモの皮むきに挑戦しようとする相手の手付きのあやうさに栄口はとうとう我慢ができなくなった。
「貸してみ。交換。」
水谷に玉葱を押し付けて、奪うように包丁とジャガイモを手にとった。
スラスラと綺麗な手付きで皮を向き始める。その様子を水谷は目を丸めて凝視していた。
「すっげぇ…」
「うち母親いないから。慣れてるんだこういうの。」
栄口は覚悟を決めて、本当はいつまでも言いたくなかった台詞を吐いた。
栄口って可哀相。
もう慣れっこだ。覚悟はできてる。
水谷は栄口の手元をいつまでも眺めていた。
吐息を漏らして言う。
「本当すっげぇ…栄口器用だなぁ。毎日やったってこうはうまくなんないって。うちのオカン栄口より絶対手つき悪いよ。」
「…………へ?」
思いもよらない答に栄口はぽかんと口を開いた。
「オカンがいるとかいないとかじゃなくて、これは栄口の生まれ持った才能だって!栄口将来料理人になるってのはどう?板前もいいけどシェフもいいよね…きっと大繁盛だよ。俺絶対栄口の店毎日通う。ってか俺、栄口の店に就職する。店の名前は…そうだなぁ」
大まじめでそんなことを言う水谷に、思わず栄口は噴き出した。
「ちょ!笑うなよ!真剣に言ったのに!」
「あはははははは!うざいよ、水谷!」
「ちょ!栄口ひどいっ!」
……可哀相って言われなかった。自分の生まれ持った才能だなんて言われたのははじめてで。嬉しくて照れくさい。
栄口は自分の能力が少しだけ誇らしくなった。
将来水谷と二人で料理店を経営するのもいいな、と栄口は頭の片隅で思ったのだった。
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