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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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俺がはじめて幸村部長に出会った日、傍らには常に真田副部長がいた。

俺がはじめて幸村部長を愛しいと感じた日、幸村部長は既に真田副部長のモノだった。


俺がはじめて幸村部長の全てが欲しいと願った日、幸村部長はもはや真田副部長無しには生きていけない体になっていた。


幸村部長と真田副部長の間には、二人だけの悠久の時間が流れている。
その間には、何人たりとも足を踏み入れることができないのだ。


俺と真田副部長。

何がそこまで違うのか。


答えは簡単だ。

俺と真田副部長では、生きる時間の軸が違うのだった。
それは微細で、些細な差なのだけれども、決定的な致命傷なのだった。

俺はこの壁を永遠に壊すことはできない。

真田副部長の時間が止まらない限り、俺は俺の望むモノを永遠に手に入れることができない。



「なんつー顔してんの、お前」

そう言って俺の背中をゆっくり押していたはずの丸井先輩が、寄り掛かってきた。ズシリとくる。正直、重い。

「丸井…先輩…重いッス…」
部活がはじまったばかりの放課後。レギュラーは、それぞれペアを組んで、柔軟をしていた。俺は丸井先輩とペアを組んでいた。

「お前が今、何を考えてたのか当ててやろうか?」

丸井先輩は、くちゃくちゃと耳障りな音をたててガムを噛みながら、意地悪く笑った。
「幸村部長、愛シテマス。ドウシテ真田副部長ナンカト。真田副部長ガ憎クテ憎クテ、俺オカシクナリソウ。………どぅ、天才的?」

「…………なんで…わかるんスか…」

「赤也の場合、顔に書いてあんだっつーの。全部な」

そう言って丸井先輩は、チラリと幸村部長を見た。
柔軟の最中、常に俺の視線の先にいた人だ。

幸村部長はベンチで、真田副部長と今日の練習メニューについての確認の最中のようだった。

二人でいることが、さも当然のように存在している二人を見ていると、俺の心はチリチリと暗く静かに燃えはじめるのだ。

真田副部長が憎い。

「真田副部長は…ズルイっすよ…」

丸井先輩は何も言わなかった。
何も言わなかったけれども、俺は話続けた。

止まらなかった。

吐き出してしまいたかった。
「俺が幸村部長と出会う前から、ずっと幸村部長の側にいて。ズルイです。…ズルイです。スタートラインが同じだったら…。同じ…だったら…」

幸村部長は、俺を選んでくれたかも…しれない。


「丸井先輩…俺たまに思うんす…こんなこと考えちゃいけないってわかってるんスよ?でもどうしても…気がつくと…考えちゃうんス…。真田副部長の時が止まっちゃえばいいのにって。そうして、俺が真田副部長の代わりにずっと部長の隣にいるんです。幸村部長が真田副部長と過ごした日々より、ずっと長い時間を、幸村部長の隣で過ごすんです。真田副部長は、過去る時の中で、思い出と共に風化されて行って、幸村部長の中は俺で満たされて行くんです。気が付いた時は、部長の中は俺で溢れていて、俺がいないと生きていけないんです。そうなればいいなって…思っちゃうんです…つまり…つまり」

俺は白い息を吐き出しながら言った。

「真田副部長なんて死ん」

途端に丸井先輩は俺の口をふさいだ。
丸井先輩の唇が、俺の唇を塞いでいた。

時が止まったようだった。
俺の時間は、その時に、本当に止まっていたのかもしれない。


やがてそっと唇を離した丸井先輩は言った。

「赤也、それ以上言っちゃ駄目だ。言葉にしちゃ駄目だ。言葉にすると、お前の中の引っ込みがつかなくなる。わかるだろぃ?」

丸井先輩の目は、優しさと厳しさのまなざしで、満ちていた。

「丸井先輩…俺苦しくて…」

丸井先輩は俺の頭をクシャクシャと撫でた。

「言葉になりそうになったら、俺に言え」



さっきみたいに、俺が食ってやるからな。



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真田が部活を終えて、幸村の病室にたどり着いた時、ベッドの上は空だった。
普段笑顔で迎えてくれる部屋の主人が消失していることは、多少なりとも真田の居心地を悪くさせた。
今日検査があるとは聞いていない。来る途中のナースステーションでも、顔なじみの看護婦は、何も言ってこなかった。幸村に何かあれば、真っ先に声をかけてくれるはずである。

(厠にでも言ったのか…)


めくれたままの布団に手を触れる。
暖房の利いた温かい室内とは裏腹に、布団の中はゾッとするほど冷たかった。
嫌な予感が真田の脳裏を支配する。

(幸村…)

背負っていたテニスバックを投げ捨てるようにして、真田は病室を飛び出した。
















「幸村…」
病院中かけずりまわった真田が最後にたどり着いたのは、屋上である。
幸村は屋上のフェンスの上に腰を下ろしていた。足が宙に投げ出されている。
今は二月のはじめである。冷たい風が容赦なく、真田の体を突き抜けていく。


彼は一体いつからそうしていたのだろう。



(一体いつから…)
真田の胸がきつく締め付けられる。

「幸村…」
「ねぇ真田…」

パジャマ姿の幸村は真田に背をむけたまま、無邪気に足をぶらつかせて言った。


「このまま飛び降りてしまおうかと思うのだが、真田はどう思う?」

「ここは五階だぞ。」

「知ってるよ。言葉にするより、ここに座って下を眺めるほうがよくわかる。ここから落ちれば、まず助からないだろうね。全てが終る。」

「……終わらせたいのか?」
真田は幸村をなるべく刺激せぬように、脳内でありとあらゆる言葉を掬い上げては捨て、掬い上げては捨てた。

「ん…と…わからないな。ただ一つ言えることは…疲れたんだ、俺は。」

「闘病生活に…か?」

幸村はゆっくりと首を降って、白い息を吐いた。


「全てに、さ。体のこともある。テニスのこともある。皆の期待や、失望のまなざしや、俺達が背負わねばならなかった伝統と誇。この肩にのしかかる全てのものが、重圧だ。窒息死しそうなんだ、真田」

今にも空に溶けて消えてしまいそうな幸村の背中を、真田は見つめた。


強い人間だと思っていた。
誰よりも強い誇と信念と実力を兼ね備えた幸村は、真田にとっての光り輝く道標に思えた。彼を目指し、切磋琢磨して今の己がある。

その道がいつからか突然途絶えた。

病が幸村を蝕んでゆくのと同時に、真田と幸村の眩しい日常は色褪せた。ただ打倒幸村を目指し、一心不乱にボールを追いかけたあの頃、こんなにも弱りきった彼の精神と肉体に対峙することになろうとは、思いもしなかった。

「真田…」

幸村の声が震えている。こんなにもか細い声で、名を呼ぶ彼を真田は知らない。


「もうこの体で、テニスをすることはできないそうだ…。俺からテニスを奪い去ったら何が残るのだろう。テニスは俺自身だ。俺にはもう…生きる意味がわからないんだ。」

(そうか…)


もうあの頃には戻れないのだ。
過酷な現実を嘆くべきだろうか。
弱音を吐く幸村を、叱るべきだろうか。
真田の心の中は穏やかだった。とても静かで、温かい。 真田の中の答えは、当の昔に出ていたのだった。


「ならば俺もテニスをやめよう。」

自分でも驚くほど、すんなりと優しい声が喉から滑り落ちていく。


「生きる意味や目的がなければ、人は生きてはいけないのか?確かに今までの俺達は、テニスが全てだった。己を奮起させ、競い合い、己を高めた。そうして俺達はたくさんのものを獲た。けれども…けれども。そうした日々の中で、俺達が失ったものも少なくないと、俺は思うのだ。俺達は多くのものを得ると同時に、内側の大事な何かが少しずつ、微細に、欠けていったと思うのだ。」

「真田…」

「ゆっくりと共に生きようではないか。俺はお前が、次に懸けたいと思う何かに出会うまで、何もせず、お前の隣にいよう。ただ、くだらない世間話を延々とするのだ。それは競争も期待もなければ、失望も落胆もない世界だ。時はただ、穏やかにゆっくりと流れるのだ。俺達は、ただその悠久の時に肉体が朽ち果てるまで、身をゆだねる。そうして…そうして。」

真田は空を仰いだ。

「俺達は世界から何も得ないが、その代わりに俺達はその世界で何も失わない。誰も傷つかなければ、何かを奪われることもなく、涙を零すこともない世界だ。そんな生の在り方では…駄目か?」


「真田…」

幸村の体が倒れる。
前ではなく後ろへ。即ち空ではなく、屋上へ。死ではなく、生へ。
真田は滑り込むようにして、その背中を抱き抱えた。

驚くほど軽い体。
白く細い手首に残る点滴のあとが痛々しい。


「ふふっ」

「何がおかしいのだ?」

微かに肩を震わせて笑い出した愛しい人を、真田は強く抱き締めた。


「だってさ、君があんなに饒舌にしゃべるところをはじめてみたんだ。」


幸村の笑顔は美しい。

真田は確信を得た。

望むものは、テニスの強い彼ではなく。
そんなものは、実はたいして重要なことではなく。

自分の望むものは、彼自身なのだと。


「ねぇ真田」


ゆっくりと微笑んだ幸村が言った。



君の語る生の在り方は、なんて美しくて、優しくて、悲しい世界なんだろうね。







部に復活した幸村の、第一の仕事。
それは全身全力で真田を殴ることだった。

その場には、現役のテニス部員全員と幸村の復活を祝いに馳せ参じたOBや保護者、教師達がいた。
皆の前で、幸村は渾身の力を込めて、真田の顔を平手打ちにした。
真田が吹っ飛び、幸村の掌が軋んだ。
皆が息を飲み、二人の行為を固唾を飲んで受け入れた。













気を失っていた真田が目を冷ましたのは、だいぶ日も落ちた夕刻のことだった。その日の練習は終り、部室に残っているのは真田と幸村だけだった。
頬に添えられた冷たいタオルの存在に気がついた真田は、そっとタオルに手を触れた。ひんやりとした感触が気持ち良い。
「……………痛む?」
幸村が首をかしげて、真田の顔を覗き込む。
真田は相手を愛おしむように目を細めて、微笑んだ。
「覚悟はしていた。」

ゆっくりと幸村も頷いた。
「手加減はできなかった。俺達が犯した罪は、それほどまでに重いのだから。」


関東大会の決勝。あの場で立海大附属は敗退してはならなかった。立海大に負けは許されない。俺達は、立海大テニス部の永きに渡って培われた伝統と誇を汚してしまったのだから。


真田は起き上がると幸村の白く細い手首を優しく掴んだ。
「痛かっただろう。人を殴るということは、殴る側にも苦痛が伴う。辛い役目をさせてしまったな…。すまなかった。」

「いいんだ。俺でなければ、ならなかったんだ。部内で唯一関東に出ていない…汚れていない俺でなければ…あの行為は、ただの茶番劇にしかならなかった。俺でなければ、周囲は納得しないだろうからね。」

「…………では」

「事態は概ね成功したといえるんじゃないかな。皆の意識は、負けを知らない鬼部長の完全復活と全国優勝への期待にむいただろう。関東敗退の象徴たる真田が殴られたことでね。やれやれ。重すぎる伝統と誇というのも問題だな。」

「同感だ。」

関東敗退が決った時から、二人はずっと己の過失と責任について考えてきた。
関東敗退により周囲に与えてしまった不安と失望の思いは、計り知れないものがある。皆の不安を少しでも取り除き、万全の状態で立海大が全国優勝をもぎとるために…。
どうしても罪人の公開処刑が必要だった。

「ねぇ真田」

真田の掌を握り返して幸村は言った。

「どうして死刑というものがあると思う?」

「…………己の罪を償うために」

「贖罪を死とすることは重すぎるとは思わないか?死んだところで、犯した罪が無くなるわけじゃない。生きようと死のうと、犯した罪は地上に残るんだ。永遠にね。つまるところ真田が殴られたところで、青学に負けた事実は変わらないんだ。永遠にね。」

「……………。」

「俺達を知るすべをもたない未来の後輩たちはこう思うだろうね。この年の先輩達は、きっと脆弱だったに違いない。15年もの間無敗を保ち続けてきた伝統あるテニス部に土をつけて凌辱するなんて、なんと愚かな世代だろう。俺達はこうはなるまいってね。俺達は未来からの批判を、甘んじて受け入れる覚悟を決めなければならない。なぜならば、それが俺達が犯した罪であり罰だからさ。」

「………すまなかった。俺が…」
苦痛に歪む真田の声を幸村が遮る。
「真田を責めているわけじゃないんだ。負けたのは何も真田一人の責任じゃない。俺なんて戦う以前の問題だしね。今俺が言いたいことは、そんなことじゃない。」

幸村は優しく微笑んだ。

「死刑というのは、見せしめのためにあるんだ。二度とその罪が起きないように、周りの目に焼き付かせるためにあるんだ。俺が今日真田を痛めつけたことは、俺達の罪や罰とは無縁のところにある。」

「そうか…」



天を仰いで真田は言った。

「俺達は、未来のためにそうしたのだな。」

「そう。俺達は、未来のために生きたんだ。だから誇を持とう。例え先の未来にどんなに蔑まれても…」


真田は幸村を抱き寄せた。

彼の肩にのしかかる目に見えない重圧の重み。

この身に代えても、その全てから彼を開放してあげたいと真田は願った。



「勝とうな、全国。」




滝のような雨が降っていた。
幸村精市はため息をついた。
天気予報では快晴だと言っていた。

突然の雨。

「幸村君」
「ああ、柳生」
「傘を忘れたのですか?」
「ふふっ…まぁそんなとこ」「ではこれをお使いください」

柳生は1本の折り畳み傘を幸村の手に握らせた。

「えっでも…」
「もう一つ傘を持ってきていますから気にしないでください。」

柳生は背をむけて去ろうとした。



「ありがとう、仁王」



「なんのことでしょうか?」



素直じゃないな、と幸村は傘を開きながら思った。
あの日あの時あの場所であんなことを言わなければ真田を失うことなんてなかったと思う。


俺はずっと悔いて来た。


この腕で君を抱けないことがこんなに辛いなんて思っても見なかった。




今この時…君はどこにいて誰を想っているんだい?



俺はあの日からあの時からあの場所から

一歩も動けずにここいる。




あの日あの時あの場所で。
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