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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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どうも俺は間の悪い人間なようで、他人のキスシーンを好む好まざるに関わらず目撃してしまうという特殊な能力を持っている。


あれはいつの日だったか。両親に連れられて行った東京タワーの展望台で一目も憚らずに濃厚なキスをかわすカップルを俺は目撃してしまった。当時俺は小学校に入学したばかりのころで、偶然振り向いた視線の先がその若いカップルだったとは言え、とても罰が悪かった。自分が望んで行動して見たわけでもないのに、なぜだか自分が覗きを働いたかのような暗澹たる暗い気分になった。俺の両親はそのカップルに気が付いておらず、当時の俺はなんだか自分だけがイヤらしい人間になってしまった気がした。


その後もこんなことは度々起こった。道端でこっそりキスを交わすカップルもいた。プールや映画館などカップルが盛り上がりそうな場所でもしばしば俺は自分の連れは気が付いていないのに、自分だけが見ず知らずの人間の唇がこれまた見ず知らずの人間の唇にくっつく瞬間を目撃してしまっていた。


はっきり言ってうんざりする。テレビドラマの美しく演習されたキスシーンでさえ俺にはもううんざりで、その瞬間に俺はチャンネルを変えた。
キスをするなとまでは言わないが、なんでまた他人がいる可能性のある場所にも関わらず、カップルがキスを交すのか理解できなかった。気持ちが悪い。


それにしても俺のこの能力は神が俺だけに与えた才能と言っても過言ではないのかもしれない。なぜなら俺は見てしまったからだ。それも俺だけが。

うちの捕手がうちの投手に口付ける瞬間を。


その場には西浦の皆がいて騒がしかった。阿部がふと三橋に触れるようなキスをした。一瞬のことだったし、静かだったから誰もそのことには気がつかなかった。俺だけが、たまたま見たのだった。阿部は俺が目撃したことに気がついたようでイヤらしい笑みを俺に向けた。三橋は不意のことだったらしく俺以上に狼狽し、目撃者がいるのではないかと半泣き状態で辺りを見回していた。俺はしばらく阿部を無視しようと心の中で誓った。三橋があんまりだぜ。安心しな、俺しか見てねーからよ。俺が見たことも気が付いてないみたいだけど。

「ね、泉」

隣にいた浜田に小声で呼ばれて振り向くとキスされた。ほんの一瞬だったけれど。確かに浜田の顔が俺の目の前にあり、俺の唇が、生暖かい軟らかいものに触れる感触がした。

「浜田ッ!てめぇ…!」
「ゲフッ…!」

蹴り飛ばすと、西浦の面々がこっちに振り返った。

「お前ら…なにやってんの?」


誰も見ていなかったらしい。俺はこの時はじめて目撃者から当事者になった。なんだかよくわからなかったけれども…わざわざ人の目を掻い潜ってキスをするカップルの気持ちが少しだけわかったような気がした。

「浜田、次同じことしたら殺すからな!」
「ごめんってば~!ちょっとした出来心で…そのっ」


ゲシゲシ浜田を踏みながら俺は確認までに周囲を見回した。
皆キョトンとしていたが、三橋だけが俺と目が合うと真っ赤になってうつむいた。


三橋、お前もか?

俺は今度三橋に尋ねてみようと思う。


お前も俺と同じ間の悪さで悩んでんだな?
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「ね、準さん知ってますか?西浦のピッチャー…一昨日から行方不明らしいんすよ。」
とこう口火を切ったのは後輩の利央だ。
「知るわけねーだろ。なんで利央は知ってんの?」
「あ、俺は田島から聞いたんすよ。えっと…あの田島君ってのは西浦の四番でっ試合の後番号交換したんで」
「っち」
あの最後にシンカー打ったやつか。

「知るわけないと思いますけど、見掛けたら教えてくださいね。本当今西浦大変みたいで。明日に試合も控えてるらしくて。あそこ人数少いし。キャッチャーの阿部って人なんか本当血相変えて探してるみたいなんす。」
「ああ…わかった。」
「本当物騒な世の中っすよね。無事見つかればいいんすけど。生きてるんすかね」
「怖いこと言うなよ…」
そんな他愛ない会話を交わして俺と利央は別れてそれぞれの帰路についた。














西浦のピッチャー……三橋廉。大丈夫、あいつはまだ生きてるさ。
なんで俺がそんなことを知っているかって?

答は簡単だ。


俺は部屋に入ると電気をつけた。パチンと言う音とともに部屋が明るくなる。俺はベッドの上で両腕、両足を縛られたそいつを見て、ゴクリと生唾を飲んだ。その小さな小動物は泣き付かれて眠ってしまったのか小さな寝息を立てていた。


三橋をさらったのは俺だ。
一昨日、大型のスポーツショップで偶然出会った。あいつは俺と目があうなりきょどきょどと不振な行動を繰り返した。隠れる場所を探していたんだろうが…あいにくその場にはなかった。
俺は優しく声をかけた。久しぶり。西浦の三橋君…だよね?
向こうは俺が名前を覚えていたのがよほど嬉しかったのか、顔を真っ赤にして頷いた。
忘れるものか。コイツらが和さんの最後の夏を奪ったんだ。ヘロ球しか投げれないくせに…。投手と捕手と…あの四番だけは死んでも忘れられそうになかった。

ねぇ三橋君…お腹空かない?久しぶりに会ったんだし、お茶でも…どう?


この草食動物は、人を疑うということを知らないようで、俺の人当たりよさげな笑顔にすっかり騙されてのこのこと俺の跡をついてきた。
はじめは俺だって三橋をどうこうしてやろうなんてつもりはなかったんだ。

コイツが、喫茶店で頼んだパフェにしゃぶりついて、顔中生クリームだらけにしながら幸せそうに野球の話をしているのを聞いていたら…無償に俺の中の黒い炎が燻り出してどうしようもなくなっちまった。

コイツのせいで…!コイツのせいで…!コイツのせいで…!
俺は和さんともっと野球がしたかったんだ…。和さんだってもっと俺と野球がしたかったはずなのに…。

ただの八つ当たりであることはよくわかっていた。

でも俺は自分の理性を止めることができなかった。

三橋をさらい、部屋に閉じ込めて、犯し、監禁した。

俺一人で全部やったのだ。


「あっああ…」
ベッドに腰を降ろしてネクタイを緩めると、その振動で三橋が起きた。
「ごめん…起こしちゃった?」
俺は優しく三橋を抱き締めてやる。
「あああ…阿部君…阿部君…」
一昨日捕まえてきた時からコイツの口から発せられる鳴き声はこればかりだった。
「阿部君はいないんだよ。代わりに俺がいるから。それでいいだろ。」
「あああ阿部君…阿部君…あべっ…君…」
三橋は涙を流して鳴いた。俺は三橋の涙を舐めとってやる。
乱暴なことをしたのは、部屋に連れ込む前だけで、俺はガラス細工に触れるように優しく三橋を扱った。
縛っているのは三橋が暴れて逃げようとするからで、本当はそんなこと俺はしたくないんだ。

俺のいない間に三橋は手首の縄を無理に解こうとしたのか赤く痣のラインができていた。

可哀相に…。

自分でしでかしたことなのに俺は心の底からそう思った。
昨日三橋を抱いた。三橋が嫌がるので、少し手荒になってしまったが…三橋の体ははじめてではなかった。三橋の体はすでに男を知っていて、その相手があの阿部君とやらであることは簡単に想像できた。


俺はゆっくり三橋を押し倒す。

「三橋…君。セックスしようよ。全て忘れられるように気持ち良くしてあげるから。昨日のだって良かっただろ?」
「いや…嫌だぁ…あああ阿部君…阿部君…に会わせて」

三橋は泣きながら懇願する。
嫌だね。三橋の願いを俺が叶えることはないだろう。


コイツを抱いてわかったことが一つだけある。


俺は三橋が好きなのだ。奪われた未来とか…和さんとの野球とか…そんなもの…そんなもの…本当はどうでも良かった。西浦と戦ったあの日、俺は背番号1を背負ったコイツに心の底から惚れてしまって。あの日から俺はおかしくなってしまって。
ずっとずっと欲しくてたまらなかった…。三橋が…欲しくて…。


手に入らないものなら奪ってしまうしかないと…思ったんだ…。


「三橋君…好きだよ。君を絶対離さない…」

俺でなきゃ…駄目になるまで、俺は三橋を犯すだろう。




狂った夜に墜ちてゆく…


三橋をさらうにはまず三橋の言う海外がどこなのかを知らなければならない。三橋の居場所がわからなければ何もできない。無力なものだ。

「花井、三橋が転勤したって話し聞いてる?お前もこの間の同窓会行ったんだろ?」
「転勤?知らなねーなぁ。田島に聞けば?」
花井が肩をすくめてハンカチを寄越す。お茶を拭けということらしい。阿部はありがたくそのハンカチを頂くことにした。あいにくハンカチだのタオルだのをつねに携帯している性分ではない。

「田島?なんでだよ。」
「お前本当に何にも知らないのな。田島は今三橋と同じ会社だよ。」
「はあぁ?」
「俺にキレられても…」

花井の話によると三橋と田島は進学した大学が同じばかりか、会社まで同じらしい。しかもその会社と言うのは三橋のじーさんが経営している会社で……つまり三橋は次期社長候補である…そればかりか内気で小心者の三橋を見るに見兼ねた三橋のじーさんが、ちょうど三橋の家に遊びにきていた田島を痛く気に入り、三橋の付き人としてヘッドハンティングしたとかしなかったとか…。

(ありえねぇ…)

そんな事実知りたくなかった。阿部が三橋に会えない地獄の苦しみを味わっている間、田島はずっと三橋のそばにいたのだった。
いろいろあったに違いない。10年という時を思って阿部は心の底から泣きたくなった。

(でも三橋の付き人っつーからには田島も海外にいんのかな)


「な、花井。田島の連絡先教えてくれねーか?聞きたいこともあるし会いたいんだけど。」
「別にいいけど、会うのはしばらく無理だぞ。」
「なんで?田島も海外にいんの?」
「海外?やけにそこにこだわってんだな。田島は長期主張でしばらく大阪だってこの間わめいてたぞ。」
「……大阪?」


(大阪…か)


なるほど。ひょっとすると三橋の海外転勤なんて話は嘘かもしんねーな。ニューヨークだろうがロンドンだろうがニューカレドニアだろうが厚かましく押しかけてやろうと思ったもんだが…。そもそも三橋の英語力で海外転勤なんて無謀すぎる。飛ばしたところで役に立たないのは目に見えているし、次期社長候補が海外に永住なんてまずありえねぇ。


三橋なりの嘘。


そう考えたほうが自然だ。きっと嘘の真意は…俺に会いたくねぇんだ。俺を忘れたいと…そんなところか?




阿部は花井に田島の連絡先を聞き出して部署を飛び出した。表向きは営業に出てくると宣言したが一件も外回りをするつもりはない。まぁ今月の契約数は持ち前の口の旨さが功を奏して、すでに水谷の倍以上獲得しているし、大丈夫だろうと阿部は高を括る。

社を出たところで、携帯を取り出し例の番号にプッシュした。

三回のコールで懐かしい声が耳に響く。

「はーいっ!もしもし!」
「あ、田島か」
「……………なんだ誰かと思ったら阿部かよ」

声のトーンがいっきに低くなる。別段阿部は気にしない。昔から田島はこうだった。ひょっとすると嫌われているのかもしれない。どうでもいいことだが。

「なんだとはなんだよ。」
「で、要件は?」
「三橋の居場所、教えてくんねぇ?」
「……嫌だ」

田島の即答に少し阿部は戸惑いをおぼえた。

「なんでだ?減るもんじゃねーだろ」
「三橋と会って阿部はどうするつもりなんだよ。言っておくけど10年も三橋をほったらかしにしておいて、今更三橋が好きだとか言うんなら俺は阿部を許さない。」
「……………田島」
「阿部が誰と結婚しようと構いやしないけど、三橋はそれで泣いたんだ。俺はその場にいたからわかる。三橋の心をこれ以上縛るなら俺は阿部を許さない。」
「田島…!それは誤解だ」
「三橋がさ…」

小さくなる田島の声を聞き取ろうと阿部は携帯を強く耳に押し当てた。

「三橋が…遠くに行きたいって…言い出したんだ…。道端でふらりとお前に出会う可能性のある場所に、三橋はもういたくないんだよ。三橋には大事な仕事があるから海外なんて無理だ…だから俺が説得して……いいやこの話は…。とにかくもう三橋と関わらないでくれな。三橋は今が大事な次期なんだ。俺は三橋の支えになりたいんだ。」
「田島…それが…お前の仕事だから…か?」
「違うよ。」

ハッキリとした声で田島が言う。

「俺、三橋が好きなんだ。ゲンミツに、な。だからはっきり言うけど俺は阿部が嫌いだ。」

「…………。」


プツッと電話が切れた。

通話料と通話時間を記した携帯の画面が明るく光っている。





三橋、田島がさ…お前のこと好きなんだってさ。
お前はどーよ?
田島は俺なんかよりずっ長い間お前のそばにいたんだな。俺はそんなことちっとも知らなかったよ。
その長い時のなかで二人の間にはいろいろあったんじゃねーか?田島の気持ちがハッキリしてんだもん、きっとあったよな。

それでも俺が会いに行った時、お前は俺を選んでくれるか?


漠然とだけど不安なんだよ、三橋。




お前が俺を拒んだあの日、俺はお前を傷つけてでも連れて帰って、部屋の中に縛り付けておけば良かったと今本気で思った。

これが嫉妬ってやつか?

三橋、お前が逃げるのなら俺は地の果てまで追いかけてお前に会いにいくよ。


覚悟して待ってな。








ホームルームでいじめに関する作文を書くことになった。
いじめについてどう思うか、原稿用紙一枚に記すという単純な課題だ。

なぜそんなことになったのかと言えば、隣のクラスでいじめが発覚したとかで、何か知ってることがあればその事も記すようにと担任は言っていた。

隣のクラスのいじめなんて初耳だ。被害者も加害者も知らない。だから興味もわかない。

ふと思い出したのは三橋の顔だった。


三橋。三橋、三橋、三橋…。

いじめと聞いて思い浮かぶのは三橋のきょどった泣きっ面でしかない。


あの時…俺は三橋が好きだった…だけど率先して体を張って守ろうとはしなかった。

多勢に無勢で。数の力は強力だ。三橋の味方は俺しかいなかったのだから…。世界で唯一の味方だった俺だって……時には見て見ぬ振りをした。あまりに三橋の泣き顔が可愛くて、恋しくて、愛しくて。俺は三橋の気がつかない遠いところから、いつも三橋がいじめられる様を眺めていた。頃合を見計らって出て行って、優しく慰めてやった。三橋の心を鷲掴みにするにはそれだけで良かった。簡単だった。
今考えれば、俺も加害者だったのかもしれない。

たまに優しい言葉を…かけてやるだけの……偽善者だったのかもしれない…。体を張って三橋を守ろうとはしなかったのだから。


それでも……。


俺は三橋が好きだった…。
三橋に好かれる唯一の人間になりたかった…。

「叶、作文書けたんか?」
いつのまにか目の前に織田がいて、手元を覗きこんでいた。

「できたよ。これ、出しといて。」

立ち上がり織田に原稿用紙を押し付けて帰り支度をする。
もうすぐ5限終了のチャイムがなる。
俺はもうすぐ投げられる。あいつの影ではなく、エースとして。

「なんやこれ」

織田は眉をひそめて押しつけられた紙に見入った。

「さよなら、愛しています。…………これだけ?しかも意味わからんし。先生に怒られるで?」

「いいんだよ。加害者から被害者への愛のメッセージなんだからな。俺的にはテーマに乗っ取ってあんだよ。」


頭に沢山ハテナをのせた織田を置き去りにして、教室を出る。

と同時に5限終了のチャイムが鳴り響いた。





さよなら。愛していたよ、廉。お前はいなくなってしまったけれど、これからも愛しているよ。

助けてやれなくてごめん。
お前の苦痛に歪む顔が……たまらなく好きだったんだ。お前のその顔を見るためなら俺はいくらでも偽善者になれた。

本当の加害者は俺だ、な。
















さよなら、愛しています。
それはそれは唐突に阿部は言った。

「三橋ってさぁ…本当に俺が好きなの?」
「す、好きだっよ!」
「………本当か?」
「ほっ本当だよ!」
「……無理して言ってんじゃねぇ?別に俺に合わせなくてもいいんだからな。」
「むっ無理なんかっ…してないっ!」
「………正直に好きじゃないって言ってみな。お前のキャッチャーやめたりしねぇから。」
「す、好きだっ……よっ!」
「…………本当か?」
「あっ阿部君…どうして俺の…言ってる…ことっ信じてくれなっいのっ…」
「……なんでかな…。自分でもいまいちよくわかんねーけど、お前が誰も嫌わねぇからさ…俺のことスキって言う意味も取り違えてんじゃねぇかと思って」
「そっそんなこと…ないっよ!」
「……じゃあどう言う意味で好きなのか、言ってみな」
「ああああ阿部君が…好きでっす…」
「言葉だけじゃよくわかんねぇな…」
「………ど…どうした…ら…いいの…」
「それぐらい自分で考えな。俺のことが好きだって証拠見せてよ。」
「………………っ」
「……思い付かないってことは、だ。俺のこと好きだって証拠がないってことだよな?」
「おお俺は…阿部君が好きだっから!えぃっ!ここ触ってみ…てっ!」
「うぉっ!ちょ三橋…!」
「おっ俺の胸ドキドキして…る…でしょ?ああああ阿部君がすっ好きだっからだよ!」
「三橋…」
「ああ阿部君の…胸も…ドキドキして…る…ね。阿部君も…俺のこと…好き…なんだ、ね。」
「そんなの…当たり前だろ。バーカ」




論より証拠。


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