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ちょっとした短い小説の掃き溜め。 CPごとにカテゴリをわけていないので、お目当てのCPがある方はブログ内検索を使ってください。 (※は性描写やグロい表現があるものです。読んでもご自身で責任がとれるという年齢に達している方のみ閲覧下さい。苦情等は一切受け付けませんのであしからず) コメントはご自由にどうぞ。いただけるとやる気が出ます。
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それは高校三年の夏の終りのことだった。

「花井~!!」
田島が7組にやってくる。手には英語の教科書が握られていた。
「英語教えて!俺今日あたんだよね!」
「……またかよ」
最近田島は良くやってくる。やれこれを教えてあれをもっとわかりやすく説明して。
ほとんどが勉強のことだった。


「ここ。」
ホレホレと田島がシャープペンシルで1ヵ所を示す。
「Boys be ambitious.」
「花井って発音いいよな!で意味は?」

「…少年よ、大志を抱け。」
「ほ?」

田島は教科書に訳を書き込みながら首をひねった。

「大志って?」
「あ~…でっかい夢っつーか目標っつうの?」

「甲子園行こうぜっ!」

田島はバッティングの真似事を軽くしてみせる。田島の腕が虚空を切る。

「ってコトか?」
「あ~…そうそう。そうだよ。」

本当一年の頃からこいつは何も変わらねーなと思い花井は少し噴き出した。

「甲子園行こうぜ…と。」
「馬鹿。教科書に何書いてんだ、お前」
「ニシシ!」

軽く小突くと田島が笑う。花井は息を飲んだ。気がつけば田島の笑顔にのめり込んでしまう自分がいた。


「ありがと花井!じゃな!」
勢い良く田島がクラスを飛び出して行く。いつ見ても元気なやつだった。

「あれ…田島来てたんだ。」トイレにでも行っていたのか水谷がハンカチで手をふきながらやって来る。
「ああ。英語聞きに来た。」「最近よく来るよな、アイツ」
と阿部が言う。阿部は花井の後の席だった。

「やっぱりあの噂本当なのかなぁ」

と水谷が独り言のようにボソッと言った。

「は?噂?」

「あれ?花井知らねーの?」
「なにが?」

「田島がA大学の野球推薦貰ったって話」

「マジで?」
「本人に聞いたわけじゃないけど。もっぱらの噂だよ。」
なんとなくショックだった。いつまでも一緒にいられることなど有り得ない。それは分かり切ったことでそのタイムリミットは刻々と迫っていることも承知の上で。それでもいざそれぞれの進路話を聞くと淋しくて胸が締め付けられた。

「一般受験だったら絶対無理だよな。田島にA大って。」と阿部が言う。

確かに。花井の記憶するかぎりそれなりの偏差値が要求される大学だった…はず。

「入ってからちゃんと授業ついていけるように頑張って今から勉強してるんじゃないの?」
「あ~…それで。なるほど」水谷と阿部の会話を花井は上の空で聞いていた。


「田島が…A大…」


フラフラと席をたつ。教室の後のロッカーの上には様々な大学案内の資料が置いてあり自由に閲覧できるようになっていた。A大の資料を探し出す。

「偏差値高いな…」

花井の今の成績では少し届かない。野球部は強豪だ。けれど田島がこの大学に入学したら授業について行くのが大変だろうなと思う。田島の学力じゃ奇跡が起きない限り一般受験は厳しいだろう。だけど…

(…俺は…少し背伸びしたら…狙えるかも…)


まだ受験まで時間がある。今から頑張って勉強すれば不可能じゃない。


って…


(何っ…俺田島を追いかける…つもりして…)


一人恥かしくなり花井は赤面して頭を振った。

(正気に戻れ…正気に戻れ…)
志望大学を書いた進路希望書はこの間担任に提出したばかりだ。田島を追いかけて志望校を変えるなんて馬鹿げている。

そう馬鹿げたこと…だ…



花井の脳裏に田島の姿が蘇る。
バッターボックスにたった田島。
自然なフォーム。
何度も眺めてきた背中。
小さくて大きい背番号5。


田島と一緒に野球を続けることができたらどんなにいいだろう。


(……Boys be ambitiousか)

先ほどの田島の笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。


(大志…抱いてみっか!)


それは秘めた決意。
そして大いなる決断。


花井は呪文のように心の中で何度も何度もその言葉を唱えて胸に刻んだ。

Boys be ambitious!











××××××
遅れてしまいました…田島様お誕生日おめでとう小説です。しかも簡潔してないし…(恥)あ、明日には…!

三年生ですがクラス替えは一切なかった設定になっています。
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毎晩のように夢を見る。

三橋が俺の上で喘ぎながら腰を振っている。
夢の中の三橋は、淫乱で激しい。
俺は何度も三橋の中に射精する。幾度となく三橋も達する。射精する度に三橋は喜んで俺にキスを落とす。俺は呼吸するのも忘れて舌を絡ませる。

二人の淫らな行為は終わらない。

「修ちゃあん…っ…気持ち良いよぉっ…あ…んっ…修ちゃん…」
三橋は白濁色の液を俺の腹上に降らせながら何度も何度も俺の名前を呼ぶ。俺も何度も三橋の名前を呼んで応える。
廉…愛してるよ。廉…好きだよ廉…廉…世界で一番愛してる…

夢の中の廉は嬉しそうに笑う。

修ちゃん…ずっとこうしていたいよ…俺…もっと…しよ?










「………………。」
けたましい目覚まし時計の音で目を覚ます。
気怠い体を持ち上げる。太股のあたりに感じる不快感。そっと布団をめくる。そして汚れた下着を目にする。こうしていつもと同じ朝が来たことを叶修吾は知る。今日もまたやってしまった…。夢の中で散々三橋と交りあう…夢精。
叶は額を押さえて虚ろに呟く。
「俺も…末期だな。」

下着を取り替えて、母親に見つからないように下着を風呂場で軽く洗い洗濯機に放り込む。制服に袖を通し朝飯を掻き込む。そろそろチャイムがなるはずだ。玄関からひょこっと三橋が顔を出し、修ちゃん早く早くと催促する。

がいつまでたっても三橋はこなかった。

「なんだよ三橋の奴。寝坊かよ。仕方ねぇ奴だな。」

遅刻ギリギリの時間まで粘るも三橋は現れない。しかたがない。軽く溜息をついて叶は一人登校する。


教室に入りクラスメイトと軽い挨拶を交わす。おはようおはようおはよう。この世に誕生してから果たして一体何万回唱えた言葉だろう。

自分の席につくと三橋の席を見る。
席に三橋の姿はない。

残念なようで少しホッとする。あんな夢を見たあとで、まともに三橋の顔が見れるか心配だ。
それにしても三橋はどこに行ったのだろう。野球部の朝練は今のところない。自主練でもしているのか。あるいは日直で職員室に行っているのかもしれない。

叶は頬杖をついて三橋が現われるのを待つ。そして朝のホームルームが過ぎ1限が過ぎ2限が過ぎあっという間に午前の授業が終わる。


三橋の席は未だに空席で、叶は少し心配になる。

(休みかよ…)


風邪でもひいたのか。それとも昨日誰かに嫌なことでもされて家で布団引っ被って泣いているかもしれない。
三橋が心配だ。

それにしても教師もクラスメイトも三橋が欠席だと言うのに誰も三橋の話題を口にしない。ヒドい連中ばかりだ。叶の中で苛々が募る。なぜ三橋ばかりがこうも不幸の中心でなければならないのか。あんなに努力家で実力のある男を誰も理解しようとしない。そればかりか排除しようとばかり考えている。ポキポキっと叶は無意識にシャープペンシルの芯を出しては折り出しては折りを繰り返した。
頭の中は昨夜の淫らな三橋を反芻してしまって黒板の文字は一切叶の頭の中に入ってこなかった。


その日一日の授業が終わる。部活が待っている。

ひょっとしたら三橋が練習にひょっこり現われるかもしれない。アイツは野球が…投げることが誰よりも大好きだから。掃除当番を適当に済ませ早足でグラウンドに向う。

グラウンドではすでに畠や宮川らが練習着に着替え終わって柔軟をしていた。その中に見知らぬでかい男はいたけれど…肝心の三橋の姿はない。

「叶!掃除当番の割りには早かったやん。」

見知らぬでかい男が親しげに話かけてくる。

(誰だよ。お前は。なんで俺が今週掃除当番だったこと知ってんだよ)

薄気味悪く感じる。そいつはとりあえず無視し畠や宮川らと軽い雑談を交わした後叶は言おう言おうと思っていた本題を告げる。


「な、お前ら昨日三橋に何もしてねぇだろうな?今日あいつ欠席だってのによ、クラスの奴等も担任も何にも言わないんだぜ?どうかしてるぜ。」

畠と宮川は途端に神妙な顔つきになる。顔を見合わせて、困ったような顔をする。

さてはこいつら…。

「おい!やっぱりお前ら昨日三橋になんかしたんだな?」

「叶」

悲しそうな顔をして畠は俺の肩を掴んで言った。


「三橋は外部受験で西浦に行ったんだ。もう三星にはいないんだ。」

「三星にいない…?嘘だろ…」

「しっかりしろよ叶ぅ…。昨日もそう言っただろ?」
宮川が泣きそうな顔で叶の腕を掴む。


(三橋が…?いない…?)


「叶」


でかいもみあげの男が心配そうに叶を見下ろす。

「さすがにもう初めましては飽きたで。いい加減目覚ましてくれや。毎日毎日同じことの繰り越しやんか…。」



(三橋…)



そうだ。
三橋は三星を出て行ったんだ…。俺を置いて…。俺を残して…。三橋は俺より野球を選んだ…。


三橋…。



叶の中に三橋と最後の別れを交わした雪の降る卒業式の記憶が鮮やかに蘇る。





廉…。
俺の心は中学の時間軸から抜け出せないみたいだ。
俺の心はきっと…お前を失ったあの日に死んじまった。
今の俺は心を失った…ただの容器に過ぎないんだ。大事な大事な中身を無くしちまった空の器に過ぎないんだ。


俺は今夜もきっとあの日々に帰るよ。きっと今夜もお前を狂うほど抱いて、現在や未来のことは全て忘れる。お前とのセックスで不毛な記憶は全て溶けて無くなるんだ。
なぁ三橋…そうしないと俺は生きて行けないんだよ。


お前のいない世界なんて…

俺には耐えられなかった。


壊れちまったみたいなんだ。


廉…愛しているよ…廉…。



どんなに俺が狂ってしまったとしてもこれだけは変わらない。絶対に。


叶修吾は三橋廉を愛している。


それだけが唯一の世界の真理だった。




目を覚ますと俺は裸のままベッドで寝ていて、阿部君もまた裸体のまま俺の横で本を読んでいた。


「……起きた?」

ほのぐらい明かりの中阿部君が言った。

阿部君の微笑を見て、俺は少し頬を染める。


意識が途切れるまで阿部君としていた行為を思い出した。二人でこれでもかと交りあった。精液の匂いがまだ部屋中に残っていて鼻につく。


「なっ…何読んでるっ…の?」

枕に顔を埋めて言った。恥かしくて阿部君の顔を見れない。こんなふうにエッチをしたことははじめてじゃないけれど、とてもそれは慣れるものでは無かった。


「…三橋に言ってもわかんないと思うけど」

「そっ…そう…だよね…ごめんなっさい…」

声は徐々に小さくなる。聞かなければ良かった。
本なんて学校の教科書ぐらいしかまともに見たことがないのに。聞いたってわからないくせに。余計な事を聞いて阿部君を…煩わせた…。

「おいっ!何も泣くことないだろ…」

阿部君に腕を掴まれてはじめて気がついた。
俺は泣いていたんだ。腕で涙を隠して…メソメソと。

情けなくて余計に涙が出た。
「ごっごめん…なさい…俺が…本なんか…読まない…くせに余計なこと…」

「馬鹿。そういう意味じゃね~って。お前未だにそういうこと考えんのな」

阿部君は俺を抱き寄せて優しく背中を擦った。


「おっ…俺が同じ本…とか読んだら…もっといっぱい…話せること…増えるかなって…思った…んだ。」


俺達の繋りは余りに一つに集約されていたから。

野球がなければ俺は阿部君と出会うこともこうして二人で抱き合うことも無かったんだ。だから話す話題といえばいつも野球のことばかりだった。

それは太い1本の糸に違いないけれど、絶対に切れない確証は何処にも無かった。
どんなに細くてもいい。無数の糸で阿部君と繋りたかった。もう阿部君と離れ離れになることはないんだって思えるぐらいがんじがらめに繋って安心したかった。


「バカ。無理して合わせる必要なんてねーよ。お前1チーム作ったとして、全員ピッチャーやりてぇっつったら困るだろ?それと一緒。」

「う…うぇ?」

「だから俺が本読んでたとして、お前が俺と同じ本読もうとする必要はないってこと。俺は読みたいから読んでるだけだし、もし読んでて面白えと思うことがあったらお前に教えてやるし。お前は自分のしたいと思うことをすれば良いんだ。」

「う…うん…」

「それに…」


阿部君は本を閉じるとジッと俺を見据えて言った。

「お前と俺、野球以外にも共通点あるよ。たくさん。教えてやろうか?」

「う…えっ?ほっ本当?…ひっ」


阿部君は手を伸ばして、俺の硬くなっている部分に触れた。阿部君はイヤラシイ手つきで撫でまわす。

「あっ…やっやだ…んっやめっ…」

「あんなにしたのにな。三橋って淫乱だよな。」


阿部君は俺の手を誘導して、阿部君のそれに触れさせた。
阿部君のここも俺と同じ。

「あっ…阿部君…」

「俺と一緒な。共通点あったろ?」

阿部君はそう言って俺に意識が薄まるような深い深いキスをした。



ずっとずっと彼が好きだった。その恋が実ることがないことは直感で知っていた。だからと言って想いを簡単に振り切ることができるほど人は単純じゃあ…ない。


あいつとは中学が同じで…ああ、だからと言って同じクラスになったことはないのだけれど。出会いはシニアの大会で。あいつは一つ上の先輩とバッテリーを組んでいた。あいつはもう覚えてないだろうけど、一度だけあいつのチームと戦ったことがある。当時の俺は榛名さんからヒットを打つことはできなかった。完全な負け試合。
最後の打席で三振した時、突然あいつは俺にこう言った。
「アイツの球、打てないだろ。」

ああ、こいつは自分の投手が自慢なんだなって思った。尊敬してるんだな。好きなんだろうなって。

そういうのいいなって思った。

それから気がつけば、校内でアイツを見掛けると目で追うようになっていた。
でも知り合いのように話かけることがどうしてもできなかった。


中学三年になった夏、進路指導室の掃除当番だった俺は偶数アイツの進路希望を見てしまった。


第一志望 西浦高校


西浦って野球部あっただろうか。いやその前に榛名さんは武蔵野第一に進学したって噂を聞いていた。武蔵野に行かないのか。なぜ。良いバッテリーに見えた。シニアを卒業したって同じ高校で甲子園を目指すんだろうなってなんとなく俺は思ってた。


気がついた時には、俺も第一志望を西浦にしていた。



晴れて西浦に入学した俺とアイツはもう他人じゃない。
チームメイト。掛け替えのない繋りを俺はやっと得ることができた。



「なぁ…栄口」
部室で雑誌を読んでいると、他校のデータをまとめていたアイツがふいに言った。

「三橋…って好きな奴いんのかな?」

ああ。君の目には投手しかうつらない。俺が投手だったら運命はまた少し変わっただろうか。

俺は答える。懇親の笑顔で。どうかこの笑顔が作り物だとバレませんように。

「阿部だろ。」

「…じゃあさ俺の好きな奴って誰だと思う?」

「三橋だろ。」


「…やっぱりそうか」

ニヤッとアイツは笑った。

本当こいつって…


俺は雑誌を閉じて鞄にしまいながら言った。

「お互いの気持ちがわかってるなら、早くくっついちゃいなよ。三橋が可哀相だよ。俺この間三橋に恋愛相談されたよ。」

溜息をついて立ち上がる。三橋の事も好きだった。友達として。だから三橋の力になってやりたいって思ってしまう自分は馬鹿だ。


「俺、帰るよ。また明日な。阿部も早く帰れよ。」
「栄口」

ドアに手をかけた時アイツは言った。

「ごめんな。」

アイツは俺の気持ちにとっくの昔に気がついていたんだ。

「水谷がお前に惚れてる。多分巣山も、な。今好きな奴の事なんて忘れちまえ。大切にしてもらって、幸せになれよ。お前の笑顔、辛そうで見てらんねぇ」

「…余計なお世話だよ」



部室を出る。滝のように涙が溢れ出た。涙で視界がぼやける。輝く月が歪んで見えた。

本当…




阿部はヒドい奴だよ。







三橋と叶がカフェでお茶をしている。その姿を俺は植木を挟んだ反対側からこっそり覗いている。
「なんで俺まで…」
半泣き状態の水谷を軽く小突く。水谷は更に「俺は今日栄口と二人っきりでデートのはずだったんだぁ~」と膝を抱えて泣き出した。
チッと俺はオペラグラス越しに三橋の姿を眺めながら軽く舌打ちする。
「コーヒーおごってやったろうが。お前は友達のピンチより自分の幸せを選ぶのかよ。」
「あはは。その台詞、阿部にそのままお返しするよ。あっウェイターさん、モンブラン二つ追加で。」
片手をあげて店員を呼び止めながら栄口が笑顔で告げる。チッとまた一つ俺は舌打ちした。ここの会計は全て俺持ちなのだ。
一人では何かと心配だったのでこの二人を引っ張ってきたのだが…明らかに人選ミスだった。水谷は泣き叫ぶだけだし、栄口はやたら俺の財布を消費するだけでまったくもって役に立たず。花井と泉にすれば良かったぜ…。

「三橋…」

今日一日、三橋の後をつけている。浮気すると宣言されてはいそうですかと黙って自宅に待機なんてできるものか!
朝、叶が三橋のうちまで迎えにやって来て、二人は都内に出た。都心で買い物を楽しむ様子を俺は歯ぎしりしながら尾行した。

くそっ…俺だって…三橋と仲良くショッピングなんかしたことないんだぞ…

「それは阿部がすぐ三橋を自分の家に連れ込みたがるからだろ…モグモグ」
ショートケーキを口いっぱいに詰め込んだ栄口が余計な事を口走る。

「今日は栄口と二人で映画に…」
「水谷!黙れ!」


うつむいたままミルクティーを飲んでいた三橋に叶が言った。

「廉、なんかあったのか?今日のお前どことなく上の空っつーか…空元気つーの?」

「かっ叶くん…」

「悩みがあるなら言ってみ?力になるからさ」

「叶君…おっ俺…阿部くんと…喧嘩しちゃって…」

「阿部…?ああ…あの性格悪そうな西浦のタレ目か。」

叶…お前…次会う時覚えてろよ…。

「かっ叶く…っ」

三橋はポロポロと大粒の涙をこぼして泣き出した。

「俺っ阿部くんの事が…好きなのにっ…そう言ってるのに…阿部くん…信じてくれなくて…」

み、三橋…。

「三星の皆のアドレス消されたりっ…とか…叶くんっと会っちゃ駄目っとか…おっ俺が信用できない…から阿部くんは…そうするんだよね…俺どうしたら阿部君に…信用して貰えるのっかな…」

「三橋…。」

叶がヨシヨシと三橋の頭を撫でている。

俺は呆然とそんな三橋の姿を眺めていた。


「三橋の気持ち、わかった?」
と栄口。



ああ…。
俺は自分の気持ちを三橋に押しつけるばかりで三橋の気持ちなんてちっとも考えた事がなかったんだな…。
いつも俺の一人相撲で…。

三橋が俺のせいでこんなに悩んで苦しんでいるなんて考えた事もなかった。


三橋を信用してなかったわけじゃない。あいつを見てると危なっかしくて…心配だったんだ。目を離した隙に消えてしまいそうで…怖かった。

三橋を失うのが怖くて三橋の気持ちを見落としてた。




俺は携帯を取り出すと『昨日はごめん。もう何も言わねぇから叶と二人で楽しんで来いよ。』とだけ打ち込んで三橋に送信した。


俺に足りなかったものがある。

それは三橋を信用すること。


「水谷、栄口。今日は悪かったな。俺、帰るわ。後は二人で仲良くやってくれ。邪魔して悪かったな。」
「阿部…」




近場の駅から電車に乗り込む。
今頃三橋は叶とどんな話をしているんだろう。気になる。気になるけど、いいんだ。 三橋の全てを俺が貰おうなんて、俺が傲慢過ぎたんだ。 三橋にだって恋人以外に大切にしたい人がいるんだ。
俺はその事実を受け入れなきゃいけないんだ。

そんなふうに少しセンチメンタルな気持ちに浸っていたらポケットの中の携帯が振動した。



そう言えばさっきの会計代渡すの忘れたな…栄口あたりが戻って来て金払えってことだろうか。



携帯を開くと愛しい名前が目に飛び込んで来た。



『今から帰ります。昨日はごめんなさい。浮気なんて嘘です。これから会いませんか?阿部君に会いたいです。阿部君が一番に好きだから』




三橋。
俺もお前が好きだよ。
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